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「……っ……あんたに、兄貴の何が
分かる……?」
そう切れ切れに発すると、尊は前のめりに
なっていた体勢を立て直す。
そして地面から離れる気配のない男を
屈むように覗き込み、その胸ぐらを掴んで思い切りこちらに顔を向かせた。
「その情報、どこで聞いたか知らない
けど、証拠のない知ったかぶりは止めろ」
だが男はそんな彼の牽制を鼻で
笑い、相変わらずギラついたような不気味な
瞳を据わらせると__
「あんま調子に乗んなよ、お坊っちゃん」
そして次の瞬間、ガッという鈍い音と
共に、再び尊の身体は地面へと叩き付けられた。
「……っ……尊!」
忍が思わず彼の側へと駆け寄りその場に
しゃがみこんだのと、彼が軽く吐血したのは
ほぼ同時だった。
「……お前……っ」
もはやこれ以上は我慢の限界だ。
_例え殺しても、これは
正当防衛だ……!
だが、忍がその怒りに滾る瞳を
ふらりと立ち上がる男へと突き刺した、
その時だった。
「今だ、落とせ!」
そんな声が聞こえたかと思うと、ガラガラ…と何か金属音のようなものが真上から忍の
耳をつんざいた。
「な……っ!?」
慌ててそちらへと顔を上げたそこには、男の
手先と思われる三人の輩が、廃屋の屋上の手すりに巨大な鉄パイプを這わせていた。
その様子を目の端に捉えながら、忍は
素早く女が縛り付けられていた椅子を
手繰り寄せると、それを意識のない尊の頭を
覆うように傾けて置いた。
そして次に、無造作に立て掛けられていた
古びた看板を思い切り右足で蹴り倒し、彼の
身体も覆った。
鉄パイプが真上から降りてきたのは、この
行程を終えた直後だった。
無慈悲に降下していくそれを見上げると、
忍は自身の頭を椅子の下に滑り込ませ、手薄状態のように危うい弟の頭を、きつく両手で
抱え込んだ__。
…………
…………
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