0.発端

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「……っ……あんたに、兄貴の何が 分かる……?」 そう切れ切れに発すると、尊は前のめりに なっていた体勢を立て直す。 そして地面から離れる気配のない男を (かが)むように覗き込み、その胸ぐらを掴んで思い切りこちらに顔を向かせた。 「その情報、どこで聞いたか知らない けど、証拠のない知ったかぶりは止めろ」 だが男はそんな彼の(けん)制を鼻で 笑い、相変わらずギラついたような不気味な 瞳を据わらせると__ 「あんま調子に乗んなよ、お坊っちゃん」 そして次の瞬間、ガッという鈍い音と 共に、再び尊の身体は地面へと叩き付けられた。 「……っ……尊!」 忍が思わず彼の側へと駆け寄りその場に しゃがみこんだのと、彼が軽く吐血したのは ほぼ同時だった。 「……お前……っ」 もはやこれ以上は我慢の限界だ。 _例え殺しても、は 正当防衛だ……! だが、忍がその怒りに(たぎ)る瞳を ふらりと立ち上がる男へと突き刺した、 その時だった。 「今だ、落とせ!」 そんな声が聞こえたかと思うと、ガラガラ…と何か金属音のようなものが真上から忍の 耳をつんざいた。 「な……っ!?」 慌ててそちらへと顔を上げたそこには、男の 手先と思われる三人の輩が、廃屋の屋上の手すりに巨大な鉄パイプを這わせていた。 その様子を目の端に捉えながら、忍は 素早く女が縛り付けられていた椅子を 手繰り寄せると、それを意識のない尊の頭を 覆うように傾けて置いた。 そして次に、無造作に立て掛けられていた 古びた看板を思い切り右足で蹴り倒し、彼の 身体も覆った。 鉄パイプが真上から降りてきたのは、この 行程を終えた直後だった。 無慈悲に降下していくそれを見上げると、 忍は自身の頭を椅子の下に滑り込ませ、手薄状態のように危うい弟の頭を、きつく両手で 抱え込んだ__。 ………… ………… …………
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