2.BLと林檎うさぎ

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尊はそんな宮国弥生をしげしげと見やり ながらも、 「そりゃ俺が“受け”じゃないですか、 どう見ても」 と小皿を更に高く持ち上げ、忍の顎すれすれ までそれを近付けて見せた。 そして、「ほら、兄貴。早くっ」と尚も しつこく迫る。 その一方で弥生はというと、何故か真剣な 面持ちで腕を組み、顎に左手をあてがうと、 「なるほど……やっぱり王道の“兄攻め”が いいのかな……」 全く訳の分からないことを呟いている。 ……いや、なんとなく彼女の発言の意味が みえてきたが、忍はあえてだんまりを決めることにした。 だがその静かな目論(もくろ)みは、次の 瞬間呆気なく粉々に崩れ去ることになる。 「ちなみにお兄さんとしては、どうお考え になります?」 と、あろうことか素早く話の矛先を向けられてしまったからである。 「え?」 一気に頭を真っ白にされた忍は、思わず 裏返った声を発した。 「あぁ……え……っと……」 柄にもなく取り乱してしまったことを 慌てて咳払いで取り繕うと、忍は慎重に 言葉を選びながら口を開いた。 「……時と場合にもよると思います」 そう言い終えた直後、しまったと口元に 右手をやった忍だったが、時すでに遅し。 目の前の弥生は「へぇ~……」と呟き、 ニヤニヤと含み笑いを浮かべ、一方の尊は 「……何言ってんの、兄貴?」と珍獣の 神出鬼没に面食らったような顔をしている。 “しまった”と思ったのは、本当は彼女が勝手に二人の関係を妄想しているだけなのだが、忍の先程の発言は、その妄想があたかも 事実だと言わんばかりのものだったからである。 忍は小さくため息をつく。 そもそも尊を“そんな”目で見たことは 一度たりともないし、それ以前に血の 繋がった兄弟で関係が生じてしまうなど、 禁断ではないか。 それに極めつけに、忍も己が知っている限りの尊も、決して同性愛者ではない。 そんなことを脳内で悶々と、しかしはたから見れば表情筋をピクリとも動かさずに 思っていた忍の瞳に、突如、京極佳乃の姿が 映り込んだ。 車椅子に乗った彼女は、器用にベッドと物置きの間をすり抜け、更に忍のボロを待ち構えていた弥生の腰辺りに右手を添える。 「もうそれくらいでいいんじゃない? あんまり他人のプライベートに干渉する もんじゃないわ」 そして忍の方に向き直ると、 「すみません。弥生はB L漫画家さんの 編集者をやってるものですから」 そうアイラインの引かれた整った両眉を 下げて会釈した。 「いえ……」 忍も短い社交辞令で応じると、ほっと胸を 撫で下ろし佳乃から視線を外した。
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