4.父の遺言

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そんな一連の様子をやはり瞬き一つでやり 過ごすと、忍はやや伏せ目がちにしていた 目線を改めて父の方へと向ける。 だが彼の視線はこちらではなく、隣に座る 尊へと向けられた。 再びやり場のなくなった目線を彷徨わせる忍をよそに、父は口を開いた。 「次に尊。遺産は全体の三分の一」 「はい」 尊は神妙な面持ちでしっかりと頷く。 そんな彼の表情にはあまり目をくれずに父が 発した次の言葉は、忍が思わず瞳を大きく 見開いてしまう程の衝撃を持つものだった。 「明日から正式に、お前を「結城組」の 組長とする」 「え……っ……!?」 驚きのあまり言葉を失う尊に、父は 「どうした」と畳み掛ける。 「不満か?」 「いえ、そんな!」 彼は直ぐ様首を横に振り、その視線を真っ直ぐ父へと返した。 「とても光栄に思います」 その言葉に、そっと尊の横顔を盗み見た忍には、その綺麗に引き上げられた口端が僅かだが小刻みに震え引きつっているように見えた。 一つの組全体をまとめあげる“組長”という 立場が、一体どれ程重要で責任あるものなのか、これまで父の姿を見てきた忍にはよく 分かっている。 組のためならば最前線に立ち、例えどれだけ 外から内からと精神、体力共に痛めつけられようと、そこから退くことは決して許されない。 それが、都内一の勢力を誇る「結城組」の 組長であるならば尚更である。 きっと尊が今感じているものは、 プレッシャーなどと簡単に言い表せるものではないはずだ。 忍はそんな彼のピンと張られた背筋に目を やると、その背を軽く叩いた。 「兄貴……?」 ハッと我に返ったように尊は視線をこちらへ と向け、忍を凝視する。 そんなどこか不安気に揺れ動いた瞳を受け止めた忍は、ゆっくりと頷いてみせた。 _しっかりしろ。 声には出さず呟いたそれは、忍なりの彼への 激励の仕草だった。 暫し両目を見開き固まっていた尊だったが、 グっときつく唇を噛み締めると、真剣な 面持ちへと変えて忍に向かって頷き返した。
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