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__1年後 LA
忍と尊は訳あってロサンゼルス、つまり
アメリカに来ていた。
空港の出口でタクシーを捕まえ向かう先は、中心地・ダウンタウンである。
黄塗りの車両が完全に動き始めたところで、
忍は無造作に外した黒のサングラスを、白い
カッターシャツの胸元に差し込んだ。
「……で?早速ホテルに向かうのか?」
隣で窓からの景色を楽しむ尊に視線をやる。
外は丁度日が暮れ始め、じんわりと滲むような夕日が沈みかけていた。
「うん。それが俺たちへの依頼内容
だからね」
彼は組んでいた脚を解くと、忍の方へその
ホテルについての詳細が載せられている、
依頼人とのトーク画面を開いたスマホを
ヒラヒラと振ってみせた。
* * *
3か月前
事の始まりは叔父、つまり父の弟が5年ぶりにロサンゼルスから帰ってきたことである。
両親が幼い頃離婚してからは、ずっと
アメリカで暮らしていたので当然英語が流暢である彼は、ロサンゼルスでホテルスタッフとして長らく働いていると耳にしている。
そんな中一体何があったのか、突然帰国し
家を訪ねてきたのだ。
「ただいま~」
そうのんびりとした声音で易々と門の警備をすり抜けた叔父は、玄関の引き戸を鼻歌まじりに開けた。
そこへタイミングよく尊が出迎えると、
「お引き取り下さ―い」
綺麗な営業スマイルを張り付けながら、棒読みで彼に詰め寄る。
だが何故かこの追い出し方は彼には通用しなかった。
「尊~~!相変わらずツンケンしてるけど、かぁい―なぁ~~!」
その両腕の中に呆気なく収まった彼は、
くしゃくしゃと髪を撫で回されてしまった。
「だぁ~~っっっ!!
離せよ、この甥っ子フェチ野郎がっっ!」
その年甲斐なく尊をいじる叔父を柱の影から
見つからぬようそっと眺めていた忍は、
5年前も思ったことを今改めて思う。
_本当にあの父と兄弟なのか……?
密かにDNA鑑定を依頼するか静かに吟味し
始める忍にも、ついに魔の手が襲いかかってきた。
「忍~~!お前隠れなくったって
いいだろ~」
海外生活が長いせいか、はたまた尊の言う通り甥っ子フェチなせいか、そう言いながら
抱擁のため両腕を広げながらじりじりと
こちらににじりよる彼に、忍は素早く背を
向けると、
「………………」
一目散に走った。
ただひたすらに廊下を駆け抜ける忍が、高校で現役陸上部だった頃の100メートルの最高記録は10秒23。
その頃と比べるとやはり幾分か鈍ってはいる。
そんなことを考えながら、廊下の角を勢いよくかつ綺麗に無駄なく曲がった忍であった。
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