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最新オートロック式の扉にカードを挿し込み
解除を行うと、忍は室内へと足を踏み入れた。
玄関先は、三流ホテルとは違い十分に広く、入ってすぐに有りがちなバス・トイレの個室もある程度奥まって設置されている。
塵一つ落ちていない程掃除が
行き届いているのは当たり前かもしれないが、それでもあまりにも清潔さが保たれて過ぎている室内に、忍は思わず小さく感心の吐息をつく。
これはシンガポールにも勝るのではないだろうか。
_流石に罰金はないとは思うが……
忍は部屋の内装に、まだ見ぬシンガポールの風景を重ねて僅かに笑みを溢した。
転がしてきたキャリーケースをベッドの側に
固定させると、ゆっくりとその純白に腰を下ろす。
ふんわりとした羽毛に近い感触が、忍を包み込んだ。
もし叔父がフロントではなくベッドメイキングをしていたら、寝落ちしていたのではないだろうか。
そう思う程の心地よさだった。
暫しベッドにてふわふわともてあそばれていた忍だったが、ふと枕元のスタンドに放り出していたスマホを手に取ると、明るくなった画面の時刻は6時を少し回っていた。
記念パーティーは6時半からの開催である。
_……!?
慌ててスーツケースのロックを解き、中から
アイロン済みの白いカッターシャツと黒の
スーツジャケット、同じくスーツパンツを取り出し素早く身支度を整え始める。
僅かに光沢の入った、そこそこの値は張るであろう白のネクタイも結ぶ。
そして洗面台に直行すると、忍は己のサラリとした指通りの良い髪を、持参したワックスで軽く整えた。
そこへタイミング良く、コンコンと扉を
ノックする音が忍の耳へと届いた。
おそらく尊だろう。
「はい」
そちらへ向かいながら返事をし、玄関先へと辿り着いた忍は扉を開いた。
案の定、やはりそこには忍の同じくスーツを身に付けワックスで前髪を上げた尊が立っていた。
一つ違うのは、彼のネクタイの色が鮮やかな赤だということ。
これは彼が「結城組」組長である、とまでは
流石に言えないが、暗に特別な人物であるという密かな印である。
「じゃ、行こっか。兄貴」
そんな雰囲気など何一つ感じさせず、柔らかな微笑を浮かべる尊は凄いと忍は思う。
この誰にも警戒心を抱かせぬ面持ちは、
きっとこの先組長として役に立つときがくるに違いない。
今はまだだが、新体制を迎えた己とそれを
率いる立場となった彼にこれから振りかかるであろう試練を強く脳裏に思い、忍は
エレベーターホールへと足を向けた。
「あぁ」
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