1.再会

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煌びやかなシャンデリアの光を頭上の遥か上に感じている、忍と尊を待たせていた受付嬢がこちらへと戻ってきた。 「Thank you for waiting」 (お待たせ致しました) にこりと愛想良く微笑を返した尊に向き合うと、彼女は一通のファックスメールに目を通す。 おそらく叔父からの代理申請の連絡だろう。 忍はその紙の裏面に印字されている時刻を見、一瞬顔をしかめた。 今から30分前、つまり日本時間(向こう)でいう翌日の午前10時となっている。 ということは、彼はフロントという立場を 利用し、営業時間中にも関わらずファックスを送っていたことになる。 _全く…… 仕事が優秀なのはいいが、不真面目なのはいただけない。 そう思い、小さくため息をついた忍をよそに、受付嬢は改めてこちらの方へと視線を上げ、 「Welcome to the party for our hotel 10 years anniversary」 (当ホテルの10周年記念パーティーへ、 ようこそお越しくださいました) その言葉と共に、彼女は受付から一旦離れると、後方にそびえる大扉をゆっくりと押し開けた。 眩しいのにも関わらず、思わず忍は瞳を大きく見開いてしまう。 その開かれた扉の奥の奥まで、ずらりと一列にシャンデリアがその輝きを放っていた。 先程忍が頭上で感じたものとは、まるで比べ物にならない眩いばかりの数々である。 「これは凄いね……」 隣でそう呟いた尊に、視線は天井へと向けたまま頷く。 忍がどこか夢想の世界へと誘われたような、 現実感のないその光景に目を奪われながら、 ゆっくりとパーティー会場へ足を踏み入れた その時だった。 「ごめん、兄貴」 「……どうした?」 慌てて我に返り振り返った忍に、尊は困ったように眉を八の字に下げた。 「日本(向こう)で至急片を付けなく ちゃならないことが発生したみたいだ。 しばらくかかりそうだから、先に パーティー楽しんでて」 そう言って彼は右手のスマホを掲げてみせた。 もしや新たな抗争が勃発したのだろうか。 “こちら”に強い縄張り意識を持ち、かつて 対抗してきた「神条組」のことを思い出し、 忍は眉を(ひそ)める。 確かに組長の代が変わった今だからこそ、 “結城”の誇る都内一の座を狙う組が現れても可笑しくはない。 「分かった」 忍はそんな不安を尊に感じさせぬよう、努めて口端を緩く引き上げ、こちらに背を向けた彼を見送った。
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