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会場に足を踏み入れた忍を待ち受けていたのは、煌びやかなシャンデリアだけではなかった。
中央に固められ設置されているテーブルには、数々の飲食物がバイキング形式で純白の皿の上に並べられている。
食べ物のなかには寿司などの日本料理も用意されており、中々凝っているパーティーだと忍は感じた。
ただしアボカドなど、日本のそれとは異なったネタが使われていたが。
一方飲み物はというと、ビールは勿論シャンパン、カクテル、ウイスキーと豊富な種類の酒瓶が無地のテーブルを彩っていた。
忍は食べ物ではなく飲み物が並べられているテーブルへと足を運ぶと、“champagne”
(シャンパン)と印字されたタグの側に置かれている一本の酒瓶を右手に取った。
そして、それを縁の部分を下から上へと反したグラスへと一口分注ぎ入れる。
そこではたと、このパーティーの主催者、
つまりこのホテルの支配人への挨拶がまだ
だったことを思い出した忍は、一旦グラスをテーブルに置き直すと、辺りを見渡しそれらしき人物を探した。
だが尊へと送られてきた、叔父からのメッセージに添付されていた写真の男は今のところ見当たらない。
目元や口元に小皺が刻まれている、いかにも紳士という風貌を脳裡に浮かべながら、それとなく視線を走らせるがやはり見当たらない。
そこで忍は、周囲の様子を窺ってみることにした。
今はまだ、各々で談笑したりと会話に花を咲かせている招待客だが、支配人が姿を現せばそれを止めざるを得ないからである。
そんなことを考えながら辺りに目を配りつつ、忍は先程注ぎ入れたシャンパンのグラスを右手に取ると、それを素早く煽った。
引っ切り無しに周囲で交わされていた談笑が止んだのは、その直後のことだった。
忍は無造作に右の手の甲で口元を拭うと、会場の入口へと視線を向ける。
そこには、白のシャツの上に黒の燕尾服を羽織った男が口元に微笑を浮かべて立っていた。
穏やかなそれを見、忍は直ぐ様彼が写真の男、つまり支配人であることに気が付いた。
空になったグラスを一旦テーブルの上に置くと、忍は招待客の間をぬって彼の方へと歩み寄っていく。
そんな忍に気が付いたのか、支配人は招待客の拍手を右手で制すと彼もこちらへと歩み寄ってきた。
「 Hello.Nice to meet you」
(初めまして)
そう声をかけながら、彼が右手を差し出し
握手を求めてきた次の瞬間だった。
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