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無機質なアナウンスと共にエレベーターから降り立つと、忍は己の癖で再び足早にフロアを歩き始めた。
「あの、忍さん…」
そこでまたも呼び止められる。
今度は何だ、と乾いたため息をつき振り返った忍の視線を受けた佳乃は、薄赤く染まった頬で自身の左手首へとそれを下げた。
足首の傷に加え微熱も生じたのか?、と眉間に皺を寄せ、その安否を確認すべく彼女の額へと己の右手を押しやろうとした忍だったが、それを既に使ってしまっていることにはたと気が付く。
「…………悪い」
忍は直ぐ様、その左手首から右手を離した。
「…………」
「…………」
暫し互いの間に何とも形容し難い沈黙が流れる。
ややあって佳乃は先程より更に赤く染まった、半ば沸騰しかけの蒸気した頬を右手で扇ぎながら自身の左足首へと視線を落とすと、
「ほ、ほら…っ…、そうこうしている内に、血もすっかり止まったみたいですよ…っ?」
「そうか……?」
「え、えぇ」
忍は先程から一向にこちらを見ようとしない彼女を訝しみつつ、その線の細い背に右手をやりフロアの端へと誘った。
「なら、確認だな」
そしてそういうや否や、忍はその場にしゃがみこみ右膝を立てると、その上に佳乃の左足を乗せた。
「……っ!?忍さ…何して……っ!」
明らかに己の大胆過ぎる行動に戸惑ったような声音を上げられたが、忍はそれを無視し視界の行き届かない華奢な足首へと右の人差し指を這わせ傷口の様子を探る。
「……っっっ~~~!!」
自身の口元を両手で覆い、くぐもった声音を上げる佳乃は首元までも赤くさせている。
そんな彼女の様に、思いがけず忍の脳裡に何か底知れぬものが沸き上がってくる。
それと同時に己の理性が柄にもなくこと切れそうな感覚を覚え、忍は慌てて佳乃の左足を白いピンヒールへと突っ込んだ。
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