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キャリーケースのロックを解除すると、忍はその中から、消毒液や絆創膏などの医薬品が詰め込まれている黒のポーチを取り出した。
そのチャック部分に触れた己の右の人差し指は、僅かだが血が滲んでいる。
それは、つい先程まで佳乃の左足首に当てがわれていたという証拠である。
そして何より、彼女が言った、血が止まったというのは嘘であることも暗に示していた。
見た目に似合わず可愛くない意地を張るんだな、と忍は小さく笑み、一旦はベッドから腰を上げたものの、ポーチの中身を確認すべく、再び腰を下ろした。
素早くそのチャックを引くと、枕元に置かれてあるスタンドの淡い電灯を頼りに、右手を押し込み入念に入っている物を確認していく。
別に、彼女の目の前に晒して困るような物は誓って入ってはいないが、一応念のため、である。
_そう……使用済みの絆創膏とか、使用済みの脱脂綿とか、……とか………………とか……
誰が聞き耳をたてているわけでもないのに、忍は己でも分からず、何故か内心で苦し紛れの弁明を図っていた。
そんなこんな、暫しの間ポーチの中身を睨み付けながら静かに葛藤していた忍の耳に、控えめなノックの音が届いた。
忍ははっと我に返ると、ベッドから腰を上げ素早く玄関前に移動した。
マジックミラーを確認するまでもなく、扉の前に立っているのは間違いなく佳乃である。
そんなにも長く待たせてしまっていたのかと、部屋に備え付けられているデジタル時計ではなく、思わず己の右手首にはめられたSEIKOの腕時計を見てしまう。
その針はもうじき7時を告げようとしていた。
それに急かされるようにして、慌てて「はい」と返事を扉ごしに投げ掛けると、忍はノブを素早く引いた。
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