2.治癒と夜景

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扉を薄く開いてみると、そこから佳乃がひょっこりと顔を覗かせたので、忍は軽く目を見張り反射的に僅かに後ろへ仰け反った。 思わずポーチを握りしめ、ノブを離すまいと素早く体勢を立て直す。 そして部屋から出るべく、一歩足を踏み出した忍だったが、何故か彼女は己の横を素通りし、部屋の中へと入ってしまった。 「!?……おい……っ!」 とそちらへ振り返った忍はお構い無しに、佳乃は、ピンヒールを脱いで露になった色白い素足をスリッパへと滑り込ませる。 _それは俺のなんだが…… そう突っ込みたいのは山々だが、忍はそんなことより優先して指摘したいことがあった。 「やっぱりスイートは豪華ですね! ベッドもダブルだし……。 でも、お一人にしてはちょっと贅沢過ぎません?」 パタパタとスリッパの音を鳴らし、部屋をぐるりと一周してこちらを振り返った彼女。 それと同時に翻った純白のワンピースから覗く、細い腕と脚の、何と無防備なことか。 一つ吐息をつき、忍はクローゼットに備え付けられている戸棚からスリッパを取り出すと、佳乃のピンヒールの隣に、脱いだ己の革靴を並べた。 そして部屋に上がると、迷わず彼女の真正面まで歩み寄り、 「……あんた、警戒心がなさ過ぎないか?」 “え?”と言うように、そのカーネーションの唇を薄く開いたまま立ち竦む彼女を、忍は徐々に部屋の壁際まで追い詰めていく。 当然、後退り始める佳乃だったが、その三歩目で不意に互いのスリッパの爪先が軽くあたり、彼女は「きゃっ……」と小さく悲鳴を上げて背を仰け反らせた。 「_!?……っ!」 寸でのところで、忍はその華奢な背を右手で支え、何とか壁にぶつかるのを防ぐ。 再び互いの視線がかち合い、交わる。 だが先にそれを逸らしたのは、佳乃だった。 彼女はそっと控え目に、だが確かな意志を持って、忍の胸に両手をあて押し離そうとしていた。 しかし無論、己にはそれを良しとする考えは毛頭なく。 忍はそんな彼女の両手を容易く振り払うと、その背にやっていた右手を腰に移動させた。
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