151人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
扉を薄く開いてみると、そこから佳乃がひょっこりと顔を覗かせたので、忍は軽く目を見張り反射的に僅かに後ろへ仰け反った。
思わずポーチを握りしめ、ノブを離すまいと素早く体勢を立て直す。
そして部屋から出るべく、一歩足を踏み出した忍だったが、何故か彼女は己の横を素通りし、部屋の中へと入ってしまった。
「!?……おい……っ!」
とそちらへ振り返った忍はお構い無しに、佳乃は、ピンヒールを脱いで露になった色白い素足をスリッパへと滑り込ませる。
_それは俺のなんだが……
そう突っ込みたいのは山々だが、忍はそんなことより優先して指摘したいことがあった。
「やっぱりスイートは豪華ですね!
ベッドもダブルだし……。
でも、お一人にしてはちょっと贅沢過ぎません?」
パタパタとスリッパの音を鳴らし、部屋をぐるりと一周してこちらを振り返った彼女。
それと同時に翻った純白のワンピースから覗く、細い腕と脚の、何と無防備なことか。
一つ吐息をつき、忍はクローゼットに備え付けられている戸棚からスリッパを取り出すと、佳乃のピンヒールの隣に、脱いだ己の革靴を並べた。
そして部屋に上がると、迷わず彼女の真正面まで歩み寄り、
「……あんた、警戒心がなさ過ぎないか?」
“え?”と言うように、そのカーネーションの唇を薄く開いたまま立ち竦む彼女を、忍は徐々に部屋の壁際まで追い詰めていく。
当然、後退り始める佳乃だったが、その三歩目で不意に互いのスリッパの爪先が軽くあたり、彼女は「きゃっ……」と小さく悲鳴を上げて背を仰け反らせた。
「_!?……っ!」
寸でのところで、忍はその華奢な背を右手で支え、何とか壁にぶつかるのを防ぐ。
再び互いの視線がかち合い、交わる。
だが先にそれを逸らしたのは、佳乃だった。
彼女はそっと控え目に、だが確かな意志を持って、忍の胸に両手をあて押し離そうとしていた。
しかし無論、己にはそれを良しとする考えは毛頭なく。
忍はそんな彼女の両手を容易く振り払うと、その背にやっていた右手を腰に移動させた。
最初のコメントを投稿しよう!