2.治癒と夜景

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ほんの一瞬触れただけだったが、彼女の身は過剰な程すくみ、その背を震えさせた。 そして、すがるように己の身に付けている、スーツジャケットの肩口を掴んできた。 忍は、そんな佳乃を見下ろし軽く吐息をつくと、そっとその華奢な両肩に手を置き、己の背を屈めて彼女に目線を合わす。 _治療以外の目的では触れないって言ったくせに……っ そう非難するかのように、僅かに潤んだ瞳でこちらを睨み付ける彼女に、少し度が過ぎたかと良心を痛ませながらも、忍は決して逸らさずその瞳を受け止めた。 「これで分かっただろう。 男の力は女の力よりも圧倒的に勝る。 ましてやあんたは細過ぎるから、押さえつけるだけでも簡単だ」 “だからもう、男の部屋へ勝手に入るのは止めろ” そう、何よりも一番言いたかった言葉を付け足そうと再び口を開いた、その時だった。 「!?」 瞬間、気付けば忍の身体は易々と宙を舞っていた。 眩暈を催しそうな程に視界が揺れ、辺りにある物の判別も覚束ない。 一体今、己の身に何が起こっているのか。 そう考える間もなく、忍の身体はゆとりのあるダブルベッドへと叩き落とされた。 一度、トランポリンのようにポンと跳ね上がったのも束の間、再び叩き落とされる。 「……っっ!?」 言い表せぬ倦怠感に右手で頭を押さえながらも、忍は暫しきつく閉じていた両目をうっすらと開いた。 そこには、仁王立ちでこちらを見下ろす佳乃の姿があった。 その瞳は、これまでに己に見せたものとは程遠いくらいに据わっている。 _というか、ワンピースで仁王立ちって…… 「はっ……」 彼女の立ち居を見、思わず軽く鼻で笑った忍だったが、そこではたと思考を巡らせる。 _つまり…俺はさっき軟弱なお嬢に…… 事の理解ができたところで、今度はサー……と一気に血の気が引いていく。 「忍さん……」 キシリ…と佳乃はベッドに乗り上げ、こちらへにじり寄る。 「……」 忍は、間違っても顔は上げないと心に誓い、壁際へと後退る。
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