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ほんの一瞬触れただけだったが、彼女の身は過剰な程すくみ、その背を震えさせた。
そして、すがるように己の身に付けている、スーツジャケットの肩口を掴んできた。
忍は、そんな佳乃を見下ろし軽く吐息をつくと、そっとその華奢な両肩に手を置き、己の背を屈めて彼女に目線を合わす。
_治療以外の目的では触れないって言ったくせに……っ
そう非難するかのように、僅かに潤んだ瞳でこちらを睨み付ける彼女に、少し度が過ぎたかと良心を痛ませながらも、忍は決して逸らさずその瞳を受け止めた。
「これで分かっただろう。
男の力は女の力よりも圧倒的に勝る。
ましてやあんたは細過ぎるから、押さえつけるだけでも簡単だ」
“だからもう、男の部屋へ勝手に入るのは止めろ”
そう、何よりも一番言いたかった言葉を付け足そうと再び口を開いた、その時だった。
「!?」
瞬間、気付けば忍の身体は易々と宙を舞っていた。
眩暈を催しそうな程に視界が揺れ、辺りにある物の判別も覚束ない。
一体今、己の身に何が起こっているのか。
そう考える間もなく、忍の身体はゆとりのあるダブルベッドへと叩き落とされた。
一度、トランポリンのようにポンと跳ね上がったのも束の間、再び叩き落とされる。
「……っっ!?」
言い表せぬ倦怠感に右手で頭を押さえながらも、忍は暫しきつく閉じていた両目をうっすらと開いた。
そこには、仁王立ちでこちらを見下ろす佳乃の姿があった。
その瞳は、これまでに己に見せたものとは程遠いくらいに据わっている。
_というか、ワンピースで仁王立ちって……
「はっ……」
彼女の立ち居を見、思わず軽く鼻で笑った忍だったが、そこではたと思考を巡らせる。
_つまり…俺はさっきこの軟弱なお嬢に……
事の理解ができたところで、今度はサー……と一気に血の気が引いていく。
「忍さん……」
キシリ…と佳乃はベッドに乗り上げ、こちらへにじり寄る。
「……」
忍は、間違っても顔は上げないと心に誓い、壁際へと後退る。
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