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「ところでさ、兄貴。
俺達って何時日本に帰ったらいいの?」
「あの甥っ子フェチ野郎、ずっと未読スルーなんだけど」と、ベッド脇のスタンドに置かれていたスマホを手に取り、こちらへその画面を見せる尊。
先程までの、無邪気で穏やかな風貌はどこへいってしまったのか、煩わしげに眉根が寄せられている。
忍は、そんな彼の百面相に内心苦笑しながらも、やはり何時ものように瞬き一つでやり過ごし、その両肩を叩いてベッドに腰掛けさせた。
そして淡々と答える。
「別にもう帰ってもいいだろう。
すべきことは終わったんだから」
叔父から頼まれたことはただ一つ。
彼の代わりに記念パーティーに出席することだけだ。
その役目を昨夜終えた今、忍たちがここに滞在する必要はもうない。
「そっか…そうだよね」
そうこちらへ返答を寄越しながらカーテンを開けた尊は、朝の柔らかな日差しが射し込むベランダを臨んだ。
そしてまるで、そこから一望できるロサンゼルスの風景を目に焼き付けるかのように、暫し黙ったまま立ち竦んでいた彼だったが、不意に大きく伸びをすると、
「…よし。じゃあ、帰ろっか……日本に」
何故だろうか。
忍はこちらを振り返ったその面持ちに、微かな引っ掛かりを覚えたが、逆光によってそれははっきりとは見えず、その訳は分からなかった。
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