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佳乃を見つめたまま、まるで石化したかのように、目を見開き固まる尊とはうってかわって微笑を浮かべた彼女は、
「お久しぶりです。尊さん」
と丁寧に会釈した。
「…………佳乃…さん……?」
暫しの沈黙の後、辛うじてそう彼女の名を口にした彼だったが、その面持ちは今だ何処か信じがたいといっている。
すると彼女は何を思ったのか、不意にその両手をとると、
「はい。京極、佳乃です」
まるで子供に語り掛けるように、そうゆっくりと言葉を切って答えた、その直後だった。
「えぇ!?久しぶり、佳乃さん!」
ようやく合点がいったようだ。
尊はとられた両手をほどき、彼女のそれを握り返すと、そのまま勢いよく上下に振った。
為すがままになっている華奢な手首を見、そんなことをしては折れてしまうのではないか、と止めにかかろうとした忍だったが、一瞬でそれは必要ないことを悟った。
_何せあれで男を投げたくらいだからな……
その証拠に、佳乃の面持ちは絶えず朗らかである。
忍の記憶では、尊の腕力はその童顔な見た目に似合わず相当なものだったはずだ。
あれがもし演技ならば、そちらの方が末恐ろしい。
そんなことを思いながら、しかし傍目には眉ひとつ動かさず、再会を喜んでいる二人を眺めていると、ふと彼女は何かに気がついたようで「ちょっとごめんなさい」と尊の両手から自身のそれを引き抜いた。
「尊さん、掛け違えてますよ」
シャツのボタン_
そのしなやかな指先が、彼の胸元のそれに触れようとした寸前だった。
「…………」
気がつけば、己の右手は彼女のその指を掴んでいた。
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