2人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
正義主義者は木曜日に満たされない
――幸運を願うのは不幸であるからだ。すなわち、不幸を願っているうちは幸運であるといえる。
だから僕は、今日も不幸であろうとする。四つ葉のクローバーを見つければ踏みつぶすし、黒猫を見つければ目の前で反復横跳びをする。
そんな日々の積み重ねが、ついに功を成したのだろう。僕は今、間違いなく、疑いようがなく、異論の余地なく――不幸な目に合っていた。
黄昏時。橙色とも赤色とも異なる、何とも言えない色をした空の光が、窓ガラスを介して踊り場を幻想的に照らす。
誰もいない校舎の踊り場。息遣いが聞こえるほどすぐ背後に、学校一の美少女と噂されている生徒会長…………えぇと、あんまりにも接点がないものだから名前はちょっとド忘れしてしまったけれど、その件の美少女がいた。
ここで、腕に柔らかいものでも押し当てられていたのであれば、きっと僕は学校中、いや、下手したらこの地域一帯の男共から殺意の視線で射殺されるほど、羨ましい状況だといえるのだろう。
だが、残念なことに、押し当てられていたのは、柔らかいものではなく冷たく硬いもの。更に言えば、腕にではなく後頭部だった。
それは銃……いや、視界に映っていないので何かは分からないが、後頭部の感触からして、数cmくらいの銃口……いや、大きさで、こう、ドーナツのような形状だ。そう、まるで何かを撃ち出す用途のような……。
……いや、必死に誤魔化そうとしたけれど、さっき発砲していたし、何なら現物がチラリと見えたから、絶対に本物の銃なんだけどさ。
この平和大国日本で、銃を見かけるなんてことは――しかも同級生が持っているのを―――いくら夢見主義の僕といえど、流石にすんなりとは受け入れがたい。
「無駄な抵抗は止めてください。さもなくば撃ちますよ」
囁く程度の声量なのに、凛としたよく通る声だった。あぁ、それで思い出した。彼女の名前はリンだ。クラスメイトと思わしき人物にそう呼ばれていたのを聞いただけだから漢字は知らないが、別に構わないだろう。
ふぅ、思い出せてよかった。スッキリしたぜ。これで今夜はグッスリだ。さて、それじゃあそろそろお暇しようかな。
なんてことを考えていると、その思惑を読み取ったのか、更に銃口が押し付けられた。結構痛い。知らなかった、銃は鈍器としての役割も持っているのか。
別に殴っているわけではないから鈍器というわけではないのかもしれないが、鉄くらい硬いものとなると、押し付けるだけでそれなりに痛い。鉄のロックウェル硬度をなめてはいけない。あと僕の貧弱度も。
というか本当にグリグリと押し付けるのは止めて頂きたい。禿げそう。
最初のコメントを投稿しよう!