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「それにしてもまさか、にーさんがあんなに下手だったとは……」
「いや、見てたよね? 僕のときだけ何故か全部の球がデッドボールコースだったんだけど。ピッチングマシンの殺意がめちゃくちゃ高かったんだけど。打つゲームじゃなくて躱すゲームになってたんだけど」
「甘えないでください。本番で来てほしいコースだけに来ると思っているんですか? そんなことでは甲子園に行けないですよ」
「いや野球部じゃないし目指していないよ」
最初の一球。ピッチングマシーンから抛られたボールはストライクコースギリギリどころか後頭部に一直線だった。下手したら死ぬところだったので機械の故障かと思ったが、ユウキ曰くどうやら稀によくあることらしい。どっちだよ。
まぁ、不幸主義者としては甘んじて受け止めるべきだろうと思いなおし、バットも構えなおすと、今度は目の前5mmくらいを通過した。どうやらピッチャーは前の打者二人によって相当へばってきているらしい。そんな軽口を心の中で叩いていた。
そしてなんやかんやで20球全てが、親の仇のように僕の頭部を狙った軌道であったため、半ば不戦敗のような形で最下位となった。
理不尽な負けは普通に悔しいのだが、バッティングセンターを一切楽しむことができなかったというのも悔しい。勝負抜きでもう一度やってみてもやはり僕の頭部に吸い寄せられるようなピッチングだった。
そのあとにユウキがメダルが余っているからといってもう一度やったときは正常な動きだったので、恐らく僕はピッチングマシーンに嫌われているのだろう。
「見苦しいよにーさん。練習は無くて良いって大言を吐いたのは誰だっけ?」
「それ言ったの僕じゃなくて生徒会長さんだね」
まぁ、負けは負けだし、普通にやって負けたのではなく、機械の不調という不幸な理由のせいで負けたので、不幸主義者としては喜ぶべきだろう。そういうことにしよう。
いつの間にか生徒会長は目を皿のようにして――元々そんな感じだけれど――タッチパネルでメニューと睨めっこしている。手が動いていないので、何か心惹かれる料理でもあるのだろうか。
「さて、注文はどうする?」
「へぇ……この人数分あるタッチパネルで注文するんだね。こういうタイプのは初めてだよボク」
「むしろ最近はこういうのばかりだと思うけど」
「ふぅん。外食はあまりしないからなぁ。へぇ……」
ユウキも一人暮らしをしているが、基本的に自炊していると言っていた記憶がある。こういった外食に来ること自体久しぶりなのだろう。料理が面倒で、総菜や弁当を買ったり外食をしたりして済ます僕とは正反対だ。
物珍し気にタッチパネルを触っているユウキとは対照的に、生徒会長は既に注文を始めている。指の動き的に結構な量を注文しているみたいだけれど、ちゃんと机と網の広さを把握しているのだろうか。
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