1.日頃の

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1.日頃の

 日頃の行いが悪いのかもしれない。  駐輪場が無いので端っこにバイクを止めて、参道へと足を踏み入れる。  鳥居に一礼して流水で手を清め、賽銭箱の前に立つ。一礼をして手を叩き、財布を取り出して息を呑む。憧れの誰かに会えるのなら、札を入れても構わない。  ラーメン一杯食える額だから、手が震えてしまったのが原因だ。オレ様はもっと落ち着くべきだった。  滑った手から賽銭箱に落ちたのは、当初の予定の十倍の額だったから、五分くらい時が停止した。  今何が起こったのかも、自分が何をしてかしてしまったのかも、暫く理解が出来なかった。  嘘だろう、と財布を再び見つめたが。CD購入予算は消えていて、代わりに賽銭予定額のオッサンがこっちを覗いていた。  神主を呼ぼうかと思ったが、二十歳を迎えた男が賽銭を戻してくれなんて。格好悪いにも仕方ないし、なんか罰当たりな気がする。  こうなってしまったのなら、前向きに行こう。それしか出来ることはない。両手をパシリと合わせて、瞳を閉じて願い事をする。  これだけの額をつぎ込んだんだし、この街を良くするついでにオレ様の願い事も叶えてくださいな。  願いはやがて虹色に輝いて、このオレ様に奇跡を起こす。  なんて言葉を浮かべてみたが、要は目的を果たせれば良かった。本当にそれだけで良かった筈だったのだ。
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