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これは単純だけど、重大な問題だった。
オレ様はこの街に知り合いなんて居ないし、部屋を借りるにも必要なものを持っていない。
時期的に野宿は出来なくもないが、そのうち身体が臭ってくるのは間違いない。浮浪者じみた男が、どうやって街の人々から感謝を得ようというのか。
「……ああ。そこで、その二人にお願いがあるのだが」
いきなり矛先を向けられて、ずっと蚊帳の外に居た女子二人は同時にびくりと反応した。
「平尾家は、確かひとつ部屋が空いておるな?」
鳥に扮した神の言葉に感づいたのだろう、わかばちゃんの方が恐る恐る口を開く。
「……まさか、神様」
「……その通り」
その言葉に、わかばちゃんが大きく首を左右に振り始めた。
「いやいや、む! む、無理。無理ですって!」
オレ様も自分なりに、今の会話の流れで考える。
こっちの住居を探している状況下で、わかばちゃん家に部屋の空きがあるという。
つまり、それって。
わかばちゃん達の家に厄介になれという提案か。
「いや、ちょっと神さんや。それは気の毒じゃないのかい?」
年齢の近い見知らぬ男を無期限で泊めるとか、普通の女の子なら絶対に抵抗があるのは間違いない。
いくら神の言う事だからって、それは流石に無理がある。オレ様が同じ立場だとしても、やはり賛成なんて出来やしない。
「貴様が言える立場か、阿呆!」
それは神様の言う通りなんだけど、オレ様のせいで見知らぬ女の子に迷惑が掛かるのは望むところじゃない。
「そうやって格好つけるのはいいが、何か考えがある訳で無いのだろう?」
神だってあって正論を吐いてくれるんだから、ぐうの音も出ない。眩さも迷いも、全て導きによって定められているように。
「……でも、わかばちゃん」
様子を見ていたのか。ずっと押し黙っていたはなふさちゃんが、ここに来て暫くぶりに口を開いた。
「死んでいたのは、わたしたちの方だったんだよ?」
はなふさちゃんの言葉に衝撃を受けたかのように、わかばちゃんが絶句した。
あまりにも平然とした顔で口にしたから、オレ様もオレ様で言葉に詰まってしまった。
「ここで何もしないと、代わりにクニユキさんが亡くなるけど。……わかばちゃんは、それでいいの?」
わかばちゃんを見上げる彼女の瞳は、何処までも深い色をしているみたいで。見てると吸い込まれそうなのに、目を離すことが出来なかった。
オレ様なんて放っておいていいから、なんて言葉で煙に巻くつもりだったのに。どういう訳か、わかばちゃんと同様にこっちも何も言えなくなってしまったのだ。
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