パラノイア

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パラノイア

先生に託されたプリントを届けるため、優香は、立花の自宅へ来ていた。 路地裏の奥の突き当りにあった彼の家は、すこし古びた賃貸一軒家のような 自宅だった。インターホンのボタンを押すと、 ガラガラ、、ガラガラ、ガラガラ、、ガラガラ、 玄関の横式扉がゆっくり音を立てて開き、中からは、 70歳すぎほどのおばあさんが、優香の前に姿をみせた。 怪しげにこちらを伺うおばあさんに、私は今回のいじめの一件や 先生に頼まれ、代わりにここに来たということを丁寧に説明した。 すると、そのおばあさんの私に対する雲行きは晴れ、そしてそれとは逆に、 なぜか妙な表情の引きつり具合をみせ、静かに家の中へと入れてくれた。 20インチのほどの黒いテレビと丸型の茶色い木目のテーブルだけが 置かれた、狭い居間に、優香は招き入れられた。 その居間の畳に優香はゆっくりと腰を下ろすと、目の前に座るおばあさんに、 以前から彼に感じていた一つの疑問を、意を決してぶつけた。  「おばあさんは、立花くんに、、虐待していますよね?」 突拍子もなく放たれるその一言に、彼の祖母は目を瞬かせた。 「以前から気になっていたことなんですが、、立花くんの腕には、 結構な青あざがありました。最初は、いじめが原因かと思いましたが、 おかしいんです、、 私はずっと彼と同じクラスですが、その複数の青あざを見たのは、 クラス内でいじめが起きる前なんです。 ということはやっぱり家庭内の虐待しかないんじゃないか?と思いました。 なのでやはり、、あなたが立花くんを。。?」 そう言うと、彼の祖母は、静かに首を横に振り、否定した。 「わたしじゃないよ、そんなことわたしはいっさいしたことない。」 俯き加減で、おばあさんの表情があまり読み取れない。。 それでもわたしは、躊躇することなく、立て続けに質問をぶつけた。 「では、立花くんのご姉兄が暴力をふるっていたのではないですか。。? 担任の安西先生によると、立花くんには、 年の離れたお姉さんとお兄さんがいると聞いています。」 「年の離れたお姉さんとお兄さん、、?  そう悠太が、先生に言ったってことかい?」 おばあさんは、驚愕の表情で、わたしを見ていた。 「はい、おそらく立花くんが安西先生になにかのタイミングで、 お姉さんとお兄さんがいると伝えたんだと思います。で、どうなんですか?」 おばあさんは、少し下を向き、何かを考えた後、ゆっくりと口を開き、言った 「悠太にお姉ちゃんもお兄ちゃんもいないよ。」 わたしはおばあさんの言ったセリフに、一瞬驚きを感じたが、、 ウソだと言わんばかりに、またこう聞き返した。 「じゃあ、なぜ?高校生の彼があれほどの青あざを作れるんですか? あなたがご年配で、無理だとしても、若いお姉さんやお兄さんなら、 あんな青あざ、、もう容易ですよね。」 初対面の年上に対して、かなり無礼な物言いだと自覚はしていたが、、 学校でもいじめられ、身内にまで虐待され、 わたしは、もう彼がかわいそうでしかたなかった。 「嘘はいっさいついていないよ、、私の家族は、祖母である私と、孫の悠太、 そして、もうこの世にはいない悠太の母、ずっとこの3人暮らしだったよ」 「では、本当にお姉さんもお兄さんも、、いな、」 「ああ!何度も言わせないでくれよ、悠太が生まれた時から、もうずっーと、 悠太と母と私だけの3人暮らし。それに虐待していたのは、私じゃない。」 、、、  、、私じゃない、、? 「私は虐待をいっさいしたことはないけど、、けど、 悠太が虐待されていたの事実だよ」 、、ということは、 つまり、 「私の娘でもあり、悠太の母である薫が、悠太が生まれて間もない頃から、 もう毎日のように悠太に暴力をふるっていたんだよ。」 それを聞いた優香は、おばあさんにゆっくりとこう聞き返した。 「お母さんが、立花くんに虐待していたのはなぜですか?」 すると、おばあさんはおもむろに立ち上がり、すぐ隣にあるふすまを開けて 部屋の奥から、紙きれのような正方形に切り抜かれた4枚の新聞紙を 持ってきては、優香の前に突き出した。 その小さな新聞紙を手にした優香は、 悠太の「過去の真相」につながる文字たちを静かに目にし始めた。
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