16歳になった高校生の僕-教師たちからの差別-

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16歳になった高校生の僕-教師たちからの差別-

今年で高校生になった悠太は、教室内の誰よりも真面目に、 そして廃人のように、目の前の授業に取り組んでいた。 悠太の席は一番後ろの隅の窓際で、その席の位置と無表情さが相まってか、 クラスでもまったくといっていいほどに目立たず気味悪がられる生徒だった。 「は~い、それでは、この数式を解いてもらいたいと思いま~す。 誰を当てようかな? よし!じゃあ、、窓際の席に座る、立花悠太くん。」 数学担当の安西先生に名指しされた僕は、礼儀正しくその問題に答えた。 「はい、mは偶数より2はdmの倍数、よってdmは1または2です。」 そう僕が答えると、なぜか安西先生はゆっくりと口を開き、 ぶっきらぼうに、「違うよ」と言った。 「いえ、でもその数式は今いった答えしか、存在しないはずです。」 明らかにその答えでしかない目の前の問題に、僕も一応は言い返したが、 案の定、、そんな根拠は力ずくで捻じ曲げられ、安西先生はいつもみたく まるで、人を見下してくるような僕を哀れんでくるような、 そんな冷たい表情で何度も違うと、全否定してきた。 「分かりました、、すいませんでした。。」 僕が素直に謝ると、先生も満足したように、その授業を進行し直した。 こんな風に安西先生や他の教師までもが、僕のことを徹底的に目の敵にする。 最初、彼らのそんな態度を感じ始めたときは、さすがに戸惑っていたが、 おおよその検討がつき出してからは、それもすぐに慣れてしまった。 多分、、自分の過去の事実が、そこに深く関係してきているんだろう。 悠太はまたいつものようにロボットのような無感情な態度で、 その腰を下ろすと、学生に課された使命を必死でまっとうしようと、 黒板に映し出された文字たちを、ノートに板書し始めた。 僕はとにかく、必要最低外の表情、動き、態度、コミュニケーションは いっさい取らないように日々、自らの胸に刻みながら、生きていた。 それがこんな自分にできる唯一の償いなんでしょ。? そう心の中でささやいてみたが、案の定、、 大好きなママからの返事は、いっさい返ってこなかった。 僕のママは、、いや、、 ママと呼ぶのは失礼極まりないことではないのか。 僕を産んだ女の人は、僕が2歳になる前に、交通事故で息を引き取った。 病床のベッドで横たわる、真っ白になったその人は、なぜか 優しい微笑みを浮かべ眠っていた。僕にはそれが何よりもの救いだった。 僕を産んだ女の人は、いつも明るく活発で、太陽そのもののような人だった。 家の中でも、ドタバタと走り回り、姉や兄そして僕と、毎日のように、 鬼ごっこやおままごと、にらめっこなんかをしたりして、 本当に元気で天真爛漫な人だった。 でも時折、いっさい使われていない、普段なら誰もこない部屋の一室で一人、 顔を手で押さえ、すすり泣いていた。いや、、一人ではなかったかな。 時折すすり泣くその人の横には、いつもその人の母・祖母が付き添っていた。 祖母はうつむいて泣くその人の背中を優しくさすっては、いつも心のケアに いそしんでいた、、幼少期の僕はたまに見るその人の弱い姿に、 いつも小さな頭をぐるぐる回しては悩み、首をかしげていた。 だが、当時の僕に、唯一理解できたことがあるとすればそれは、 その人はまるで "何かに苦しんでいるかのようだった" 、ということだけだった。 そして6歳になった僕に告げられた、祖母からの容赦のない事実に、 その人がずっと地獄の中を歩き続けてきたんだ、ということを知る。 明るくなんてなかった、元気なんていっさいなかった、、でも、、 でも、僕たちのために、僕のためにそう振る舞ってくれていたんだよね。? その人の優しさからくる努力と定期的に襲ってきていたのであろう 自己全否定、そしてその種がすべて僕にあるという事実を理解できた その瞬間から、僕の中身は、、 ぐちゃぐちゃに引きちぎれていった。 だから16歳になった僕は今までも、そしてこれからの生涯も、 必要最低限に生き、【生きる】という苦しみを味わい尽くし、そして、 【僕を産んでくれたあの人のもとへ行こう。。】 それが、"こんな汚い僕" に唯一できる、大罪への償いでもあったから。 彼が死んでしまった以上、生きて償うことができるのは、 もう僕しかいないのだから。 悠太はロボットのように表情を変えず、板書をしながら下唇を噛み締め続けた キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン 馴染みのあるメロディーに、僕はその手を止めた。 「はい、今日はここまでです、来週は課題テストがあるから、 家でしっかり自習しておくように、期待してるからな~。。」 面倒くさそうな声でそう言うと、先生はぶっきらぼうな態度で、教室を後にした。 それでも僕は、顔色ひとつとして変えることはなかった。
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