意外にモテる僕

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意外にモテる僕

僕はこう見えても、 なんで? そう自分にも聞き返したくなるほどに クラスメイトの女子生徒から、かなりの人気があった。 そのことに気が付き始めたのが、高校に入学して最初の小休憩の時だった。 窓際に座る僕は左側にある小窓から、向こうのきれいな空を 静かに眺めていた。けどなぜか、周りからの視線が痛い。たまらずその視線の 先に目をやると、慌てて目をそらす複数人の女子たちがそこにはいた。 その時最初に感じたことは、 (もしかして、あのことが、バレてしまった。。?) そんなおぞましい恐怖からくる一つの不安だった。 僕は入学早々、谷底に突き落とされるような恐怖を その身に感じたが、、(よかったぁ。。) それは、僕の身勝手な早とちりでしかなかったようだ。 クラスの女子複数人たちは、目が合うか合わないかの ギリギリを狙っては、食い入るように僕の横顔を観察し始めた。 一人はその顔を赤く染め、また一人は目が合うたびに恥ずかしそうに 下へうつむいていた。またもう一人は、すれ違いざまのほんの一瞬を狙って あからさまなほどの上目づかいをしてくる、そんな肉食系な女子までいた。 それに決定的だったのは、体育授業でのサッカーの1試合だった。 僕は元々、運動神経に恵まれており、サッカーや野球、バスケ、テニスなど、 基本中の基本と言われるスポーツは、もうすべて完璧にこなせるほどだった。 とくにサッカーだけは、天賦の才を授かってしまったのか、 小学校のころからずっと異常なまでの上手さだった。 中学校にあがると、その噂が伝染してか、すぐに地元のメディアたちが、 僕の通う中学校まで、群がってくるありさまで、 中学卒業直前もその熱が冷めることはなく、全国各高校から、 逆指名の推薦入学をもらってしまうほどの人気ぶりだった。 だがそんな盛り上がる周囲をよそに、僕はずっとずっと恐怖ばかりが その心を支配していた。夜は一睡だってできない日々が3日は続いた。 “注目を集めれば集めるほど、、自分の過去は、誰かに掘り下げられていく"。 だから僕は、誰とも関わらないよう、その過去を掘り下げらないよう、 名門高校のサッカー入学をすべて断った。 そしてサッカーを諦めた僕には、いっさいの興味を持たなくなったのだろう これまで群がってきたマスメディアたちは、その姿を見せなくなった。 やっと目立つことなく、自分の過去もプライバシーも守れる。 そう安易に考えていた僕だったが、、それが本当に、無知で能無しだった ということをすぐに痛感してしまう。だって今では、 メディアの代わりに、クラスメイトの女子たちがいつも群がってくるから。。 体育の授業で行われたサッカーの1試合でも、それは明確に感じられた。 観客のように集まるクラス女子たちは、誰かがゴールを入れるたびに、 キャーキャーと猫のように鳴いては、またお互い同士で雑談し合っていた。 廃人のように突っ立っていた僕は、なにも考えずただぼーっと、 目の前で上下左右に飛びあがるそのサッカーボールを目で追っていた。 (ん、あれ、? ゴール前が、がら空きだ。。) 相手チームのキーパーはなぜか大きく前に出てきて、自身もボールの奪い合い に参加し始めていた。完全なゴール前フリー状態だったために、、 偶然、僕の目の前に飛んできたボールを、うまくさばきトラップすると、 そのボールをあえて一度ワンバウンドさせ、タイミングを見計らい、 その足を、ゴール目がけて、シュンっと振り抜いた。 僕のいる場所から、前方10m前に位置する無人のゴールネットに、 シュルルシュルルシュルっつ!!  きれいに突き刺さった。 その瞬間、それを目撃していたクラス女子たちは、 年齢特有の黄色い歓声を高々にあげ、大きく騒ぎ立てた。 もうお祭り騒ぎとなってしまったその現場で僕はひとり、 深いため息をついた。
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