事実をばらしにくる姉。

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事実をばらしにくる姉。

悠太は、授業を終え学校を出ると、 いつものように、勤務するバイト先に顔を出していた。 「こんにちわ。」 普段通りの無機質な声を発すると、悠太は最近通い始めたとは思えない 慣れた手つきで、事前に用意されていた派手な仕事着を着始めた。 悠太の勤めるバイト先は「キッズマリニア」という、 特別な日だけに記念撮影を代行する、いわゆる子供向けの写真館で、 我が子の誕生日や七五三祝い、涙の卒園式など、特別行事の日には決まって、 子供連れの家族一行で溢れかえり、そのにぎやかさを一層際立たせていた。 僕は、子供に評判のいい虹色柄の仕事着を着用すると、 出勤時間10分前くらいで、自らの名前が入った長方形型のタイムカードを その機械に突っ込んだ。 一度入れてしまえば、あとは自動で上下に動いてくれるため、 当然だが、動き終わった後はその面にしっかりと今の時刻が、 黒インクで書き記されていた。 「16:55分。」 ようやく出勤5分前になり、仕事モードに切り替えた僕の目の前に、なぜか、 わざと立ちはだかるかのように、店舗のオーナーがその体を近づけてきた。 僕は、いつもと違うオーナーの態度や表情に、一種の不安を抱き始めていた。 「なぁ、立花、、あのな?」 そうオーナーが言い終える前に、僕はロッカーに置いてある自分の荷物を ひとまとめにしてかばんに放り込むと、早くこの店を出ようと、 そのドアの取っ手に手を伸ばした。 頭をクエスチョンマークにしたオーナーは、何事か。。? そう言わんばかりに、僕の行動をただ見つめているだけだったが、 僕は、さっきのオーナーの態度やその表情から、彼がなにかを隠していると 直感的に悟った。案の定、、店の奥行きでは、誰かがこちらを覗いていた。 僕はこちらを覗くその人と目があってしまった瞬間に、 手に持ったドアノブを力いっぱい引っ張り開けると、 前に突っ込んでしまうほどの勢いで、その店から飛び出した。 店を出てからは、もう何も考えずにひたすら家を目指したが、やはり、 血眼になったねぇねは、僕のすぐ後ろまで迫ってきていた。 「悠太ぁ~、待ってっよぉ〜!! なんで逃げるのよ〜。」 絶対に絶対に捕まってはなるまいと、もう内臓が飛び出るほどに 必死な形相で、僕は自分の家を目標に、逃げ惑った。 「悠太ぁ~、逃げないでぇー! ねぇねぇねぇねェねェ ねェねェねェねェねェねェねェねェねェねェねェねェねェねェ。 ねェー! ねぇ絶対、他には誰にもばらさないって約束するからぁ、 だから、悠太ぁちょっと待ってよッー!!!!!!!!」 そう大声で張り叫ぶと、顔を老婆のように皺くちゃにしながら、 死に物狂って追いかけてきた。 僕は、ぜえぜえと息を切らしながらも、競歩選手のように大きく両腕を振り、 絶対に追いつかれてはならないと、前だけを向いて全力で逃げ走った。 そのおかげか、、やっとの想いで、 あの悪魔のようなねぇねを振り切ることができた。 だが頭髪や呼吸は激しく乱れ、もはや過呼吸寸前の状態にまで陥っていた。 そんな荒々しくなった息を、僕は必死で整えると今後迫りくるであろうリスク に備え、懸命にその頭を回転させ、目の前に置かれた状況を整理し出した。 まず、、オーナーには履歴書や通っている学校名、連絡先までもすべて うまい具合に、嘘で塗り固めてあったから、おそらく今後も大丈夫なはず。。 でも、、どうする、? 次はねぇねが、家や僕が通う学校の前で待ち伏せしていたら。 それにどうして、、? ねぇねはわざわざバイト先まで来て、あんな過去を掘り下げようとしたのか? そもそもなんで、僕のバイト先をねぇねが知っていたのか? 今現在は、祖母と僕の二人暮らしで、 ねぇねとにぃには、僕が小学校を卒業する前には、家を出て行った。 それきり音沙汰はいっさいなかったはずなのに、、 なのに、今更なんで。 けして知られたくはなかった事実を明らかにされ、 しかも姉の意図的な策略だったことを知り、悠太はその小さな不安から、 深くて濁った崖の底に、激しく急落下してしまうような、 そんな得体の知れない恐怖に襲われた。 悠太はいつの間にか来てしまった、どこかも分からない路地裏で、 その体を、体育座りのように小さく丸め込むと、 今の季節とは相反する寒気が全身を襲い、たまらずその場にうずくまった。
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