人間オークション

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 さすがに二十代も後半に入った女が、ミカちゃん人形で遊んでいたらちょっと恥ずかしいだろう。コレクターで集めているというのならともかく、自分はあくまで“子供の頃にお人形遊びをした”だけの普通の女子である。  実際、本当にコレクションとして扱うのなら、こんなカビが生えたダンボールに放置しておいていいはずがない。もっと言えば、遊ばないでずっと箱の中にしまっておいた方が良かったはずなのだ。小さい頃妹とさんざん着せ替えして、ままごとにつかったお人形は。あちこち塗装が禿げて、髪もぼさぼさになり、それはそれは悲惨な有様と化していたのだから。 ――よく遊んだなーミカちゃん。……ていうか、私が子供の頃のミカちゃん人形ってことは、ひょっとしてこれ結構お値打ちものだったりするのかな?  世界的に大ヒットしたミカちゃん人形だが、いくつも世代があってそれごとに顔や体型に変化がある。例えば私が持っているのは第七世代で、目は一世代前よりも少し小さく、ほっぺはふっくら、首は短めになっているらしい。その時代の女の子の好みや、流行したアニメや漫画に絵柄を似せているというのが大きいのだろう。実際、私が持っているミカちゃん人形は、私が当時好きだった魔法少女のアニメに顔立ちがよく似ているように思われる。  タオルを出して行くと、もう一体ミカちゃん人形が現れた。最初のものはロングヘアを背中に垂らしていたが、もう一体は何故かツインテールで結ばれている。しかも、私か妹がおざなりに結んでそのままにしてあったのだろう。髪の毛がリボンに絡まって、まるで爆発したような有様になってしまっている。 ――ひっどいなーボンバーヘッドじゃん。肌は日焼けしちゃってるし、汚れもあるし……これ売りもんになんのかなあ。ジャンク品扱いにしてぽーいすれば売れるのかな。  私は彼女達を箱の中に突っ込むと、その場でゴーグル先生で調べてみることにした。ミカちゃん人形の第七世代で、赤いワンピースを着ている子と青いスーツにミニスカの子――調べてみて、驚いた。どうやら私達が遊んでいた第七世代は、元々流通数が非常に少ないものであったらしい。前後の世代と比べて、切り替えが早かったからであるようだ。極めて短期間で、目はアーモンド型で青色の第八世代に切り替わってしまったようなのである。  赤いワンピースのミカちゃん、就活がんばるミカちゃん。商品名はすぐにわかった。そして、どちらもコレクターズアイテムとしてはそこそこ人気がある商品であるということも。ほとんど新品の状態ならば、なんと万単位の値段がつくこともあるそうだ。 ――すっごいじゃん!この子達めっちゃ売れるじゃん!売る売る売るう!  私は決意した。相当状態が悪いのでジャンク品扱いになってしまうが、それでもこのままダンボールで腐らせたり、捨てたりするよりはだいぶマシな金になるはずである。それこそ、数千円だろうと売れるのであれば儲けものというものだ。  今日は時間も遅くなってしまったし、明日土曜日にゆっくり写真を撮って出品しようと決める。その日私は、彼女達を再びダンボールに放り込んで部屋の隅に置くと、そのまま布団を敷いて眠ることにしたのだった。あんな汚い品でも、買ってくれる人が現れればいいなと願いながら。
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