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「……ミカちゃん達、ごめんね」
翌日。私はお人形用の小さなブラシをホームセンターで購入した。
目の前の洗面台には、お湯を張った洗面器。お人形のボサボサになった髪の毛は、お湯で綺麗に洗って梳かして、ドライヤーで乾かすだけで元に戻るという情報を入手したからだ。
子供の頃。友達の少なかった私と、いつも遊んでくれていたミカちゃん人形。一人でお留守番する時間が寂しくなかったのも、妹と遊ぶ時間が増えたのも、全ては彼女達のおかげだったと言っても過言ではない。私が望む通り、お母さん役もお姉さん役もやってくれたミカちゃん達。時には憧れのウェイトレスさんや、CAさんもしっかり演じてこなしてくれた。
あんなにたくさん、たくさん遊んで思い出をもらったのに。私はなんて酷いことをしようとしていたのだろう。昨夜見た夢はきっと、ミカちゃん達の心の叫びであったのだ。
私にとっては夢でも、彼女達にとっては現実だった。
私は彼女達の汚れや髪を綺麗にしてやることもせず、感謝も何もかも忘れて、ジャンク品として売り飛ばそうとしていたのである。時には裸に剥いて恥ずかしいところの写真を取り、型番や傷を晒しものにして。そこに、感謝どころか憐憫さえも何一つ感じないまま。
「そうだよね。……あんなにたくさん、遊んでくれたのに。その結末がこんなんじゃ、酷すぎるよね……」
私のところにいても、彼女達が日の目を見ることはもうないのだろう。お人形は、遊んでもらって、愛してもらってこそ価値があるものなのだから。
なら、私が彼女達に、愛をこめてしてやるべきことは一つであるはずだ。
「精一杯、綺麗にして、可愛くするよ。……今までの、たくさんの感謝をこめて」
リボンをほどき、お湯で髪の毛を綺麗に洗って丁寧に水分を拭き取り、ドライヤーで乾かして梳かして。
顔や手足も、丁寧に丁寧に拭き取った。少しでも可愛くして、愛をこめてお見送りができるように。
「今までありがとう、二人のミカちゃん。新しいお友達のところでも、よろしくね」
二人のミカちゃんの状態は、一段階上げて“使用感あり”で出品した。
そして出品画面には、こんな言葉を書き添えたのである。
『幼い頃の私の、とても大切なお友達です。
どうかこの子達を、精一杯愛してくれる人に買っていただけますように。』
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