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「ところで彼方君。随分いきなりに部屋へ入って来たようですが、何かご用ですか?」
「あ、あぁ、……改めて、話がしたくて」
「話?」
「僕は、僕とちゃんと向き合ってくれる千秋さんを好きになったんだ。だから絶対離すつもりなんてないってこと。……急に言いたくなったんだ」
最初はそんな事を考えていた訳ではないが、まとめるとそういう事だと彼方は思う。
彼女を道具だなんて思いたくはない。ずっと付き合っていきたいと考えたからこそ彼方は求婚したのだ。
しかし千秋はくすくすと笑っている。冗談に思われたようで彼方はむっとした。
「あぁ、ごめんなさい。嬉しくてつい」
「嬉しい? 千秋さん嬉しいの?」
「告白なんて初めてされましたから。なるほど、こんなにこそばゆいものなんですね」
そういえば結果的に告白となってしまった。
しかし彼方は恥じる事がない。下手に誤魔化しても千秋には見透かされてしまうだろう。
そんな正直さが千秋には響いたらしい。
学校にも行っていない、不仲の婚約者がいる千秋ならば異性から告白をされた事もない。だからか千秋は嬉しそうにしていた。
「……そっか。告白をしてなかったよね。告白、大事なのに」
「はい。私も大事だと思います」
「ちゃんとデートもしよ。千秋さんと色んな所に行きたいな」
「はい。それは婚約したらの話ですけど」
小学生である彼方は告白こそが一番大事だと考える。クラスで話題になるのは誰かが誰かに告白したという事なのだから。小学生だというのにそれを忘れるとはうっかりしていた。
「あぁ、そうそう。これは前から茜さんに頼んでいた物なのですが」
千秋は彼方の背後をすっと指差した。扉口には紙袋に入った包みがあった。
「開けて下さい。私はほら、手が油まみれなので」
「はいはい。開ければいいんだね?」
手についたチキンの油を拭いながら千秋は指示した。こういう指示は彼女がお嬢様らしいと思いながら彼方は包装を開いた。
その中身は彼方もよく知るゲーム機だった。
「ナンテンドーDS?」
「はい。それを彼方君に差し上げます。友達は皆持っていると聞いたので」
「もらえないよ、こんな高いの」
「私の話し相手役を引き受けてくれた報酬ですよ。お母さんには茜さんがパチンコで勝った景品とでも言ってごまかして下さい」
千秋からのプレゼントに彼方が喜ばないはずがなかった。しかしゲーム機は高価だ。話し相手といっても彼方が一方的に話しかけるだけで、この報酬には釣り合わない気がする。
何よりこのタイミングというのが気になる。
「このゲームで彼方君から秘密を探る時間を奪えるでしょうね」
「あぶない、これは罠だったのか……」
「私も同じゲームを買いました。一緒に遊びましょうね」
「そんな事言われたら遊ばない訳にはいかないじゃないか」
千秋とゲームをするのは楽しそうだ。しかし今は秘密を探したい。
そんな葛藤に悩む彼方だった。
「茜さんがこれもチキンも買ってきてくれたんだね」
「はい」
「つまり茜さんは千秋さんの秘密をいっぱい知ってる」
「長い付き合いで、彼も気の利くところがありますから」
「千秋さんは茜さんと結婚したいとかは思わないの?」
ついに彼方はずっと抱いていた疑問をぶつけた。彼女を知れば知る程、茜は特別に気を許すさしているように見えた。それに千秋の十四歳という年を考えれば身近にいる大人の男性に惹かれるのではないか。そんな事を彼方はモヤモヤと考える。
「そういう事は考えた事がありません。茜さんは私の母が好きなようなので」
「えっ」
「不倫や泥沼ではなく、助けられた恩を母や私に返したいというような感情です。だから彼方君が心配するような事は一切ありません」
きっぱりとした否定。
茜からの千秋への好意はない。あんなにも優しげに見えるのは千秋母への恩を返すためらしい。
千秋はそれがわかっていて受け入れている。茜を特別扱いするのもそのためだ。
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