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翌日の昼は猛暑日だった。
加々美家の手伝いをこなしお駄賃を得た彼方は、加々美家の古い自転車を借りて、この付近では珍しいコンビニへ向かった。
コンビニと言っても個人が経営している酒屋に品揃えを増やしたようなもので、朝遅くに開き夜すぐに閉まる。
ただ駄菓子類が充実しているし、買い物をすれば店内のスペースを利用していいことになっていて、この付近の住民の良いたまり場となっていた。ゆるくかけられたクーラーの中、菓子代だけで過ごせるのは子供的にもありがたい。
彼方は棒状のアイスを選び、読書中の店員に声をかけた。
「あら、彼方君久しぶりだねー。今日は加々美さんちのおつかい?」
店員・弥生は彼方の顔を知っていた。田舎なので買い物をする人はほぼ顔見知りである。
「ううん。今日は学校の子と遊ぶ予定」
「そっか。お屋敷で火事があったって聞いて心配してたけど、その様子なら大丈夫そうね」
弥生は火事の話を聞き、常連である彼方を心配していたようだ。
確かに彼方のような子供が外で遊んでいる様子がないのは大人として心配になる。それを見越して千秋も遊びに行けとすすめたのだろう。
「敦也さん、残念だったね。よくうちのお店に来てくれたのに」
「……うん。あれ、弥生さんは敦也さんを知ってるの?」
「よくお酒を買いに来てくれたの。ちょっと前まではタバコもね」
この付近に住む、酒やタバコをたしなむものはほぼ必ずここに訪れる。
だからどちらも必要とする敦也もこの店の常連だった。
「え、それっていつ頃の話?」
「敦也さんは前からちょくちょくは来てたよ。何の仕事してる人かは知らないけど、加々美家の親戚なんでしょ?」
「う、うん。そんなかんじなのかな。僕もよくは知らないけど」
正確には敦也は占いの仕事で困った時に千秋を頼りに来ているのだが、部外者には話さない方がいいと彼方は判断し黙っておいた。
「でも夏休みあたりかな。お酒買いに毎日来るようになって。ただタバコは買わなくなったから、失業でもして禁煙したのかな?って思ったんだけど」
「禁煙?」
「逆かな。禁煙せざるをえない病気になって失業したとかも考えられるよね」
「ちょっと待って。敦也さんは禁煙してたの?」
「あ、うん。夏休み頃からうちでタバコ買いに来なくなったから。お酒は買いに来てたのに」
どこか必死な彼方に戸惑いながらも弥生は答えた。
もし敦也が禁煙していたとしたら、離れの火災の火元はおかしくなる。敦也の深酒の上寝タバコにより火災になったのではないか。
しかしタバコはこの店でなくても買えるし、持ち込む事もできる。
禁煙したというのは推測にすぎない。
「敦也さんが吸ってた銘柄はメジャーなものだからねぇ。別にうちで買わなくてもいいけど、お酒は買いに来てもタバコは買わないってのは禁煙だと思ったんだ」
「僕のお母さんとか、おつかいの人は買いに来なかったの?」
「皆良く来るけど、最近にタバコのおつかいはなかったかな。そもそも加々美家は誰もタバコを吸わないみたいだからね」
弥生と共に雑談するうちに、禁煙していたという話は真実味を増した。
やはり不穏な噂通り、放火と考えるべきかもしれない。
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