十歳の婚約

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彼方は悩むのを一時やめて、会計を済ませたアイスにかじりついた。そして居間のような生活感ある飲食スペースに入る。 約束していた友人達はまだ来ていない。それまでにゲームを進めておこうとポーチからゲーム機を取り出した。 「彼方。やっぱりここにいたか」 友人達にしては低い声が彼方を呼びかける。 顔を上げればスーツ姿で汗だくになった茜が店へと入った。 「外に自転車があるからもしかしてと思ったんだよ。あーすずしーな」 「うん、茜さんはこれから戻るところ?」 「あぁ、それなんだがな。すぐ旦那様のとこに行かなきゃならなくてな。これ、お嬢さんに頼めるか?」 茜は汗を拭いながら紙袋を差し出した。本屋の包みだ。 フライドチキンやゲーム機のように、また彼は千秋から内緒のおつかいを頼まれていたのだろう。きっと孝子に言っても買ってきてくれないような本が入っている。 しかし茜はそれを買えたものの急ぐ用事があり、ここから千秋のところへ届ける時間さえも惜しんでいるようだ。 「あっ、今すぐ渡さなくていいぞ。お嬢さんも仕事中だからな。お前が遊んだ後でもいいから渡してくれ」 「うん。わかった」 「レシートはこの袋に入っているから、それもちゃんと渡してくれな。あと俺は二、三日帰れないから、彼方がお嬢さんを気遣ってやってくれよ」 「任せて!」 彼方はとてもよい返事でその仕事を受けた。 しばらく留守にする茜の代理。つまり千秋には茜並みに頼りにされるという事だ。彼方にとって認められるのはとても嬉しい。 「……うん。それでできたらなんだけどな、お嬢さんの明日の占いにはついてやってくれないか?」 「占いの仕事に?」 おつかいだけでなく占いの仕事まで、というのは急に頼られすぎているように感じて彼方には違和感がある。千秋の占いには守秘義務というものがあるはずだ。誰が何に悩んでいるか、そんなことを知るのはいけない気がした。 「いつもは俺がついているんだ。依頼人もどうせ俺達にはわからない経済の話ししてるからって、嫌だとは言わないはずだぜ。だからお嬢さんにはお前についていてやってほしいんだ」 千秋の母への恩が有り、千秋に尽くす茜。そんな茜から頼まれるには何か意味があるようだった。ただ気を利かせたわけでも、気まぐれでもない。それは絶対に守らなくてはならない事かもしれない。 「わかった。占いについていけばいいんだね」 「ああ、頼む」 茜は彼方の頭をくしゃりと撫でてから慌ただしく去る。彼方は預りものを愛しげに抱き締めた。
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