十歳の婚約

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「あの、彼方君。私はもう寝間着姿なのですが」 「あ、居座ってごめん。でももう寝ちゃうの?」 「明日も占いの仕事があるので早めに眠らないと」 結局ふすまの向こうから出ることはなく千秋は言った。時間は六時。眠るには早すぎるが、そこは特殊能力を持つ千秋だ。人より睡眠時間を必要とするかもしれないし、寝間着姿ではふすまから出られないのだと彼方は察した。 そしてもうひとつ、茜から頼まれた事を思い出す。 「そうだ、占い!」 「占い?」 「茜さんの代わりに、僕が明日の占いの手伝いをしちゃだめかな?」 肝心な事を忘れてしまっていた。明日の占いに付きそう。それはきっと茜ののぞみだ。しかし千秋にとってはそうでもなく、その声は迷っているようだった。 「うーん……茜さんがいないならいないで、なんとかなる事なのですが。現に茜さんだってその依頼人の時だけ勝手に来るものですし」 「でも僕、茜さんに任されたんだよ」 「……じゃあ居るだけでいいなら。多分明日の依頼人は気にしないでしょうし」 「やったぁ!」 仕事中の千秋を彼方は知らない。ならばそこにも秘密がある気がしてなにがなんでも付き添いたかった。 「ただし条件があります」 すかさず千秋は言った。 「占い部屋に入る時は私より後に、出る時は私より先に。気をきかせたり余計な動きはしないで下さい」 「う、うん。わかった」 妙な条件だ。普通手伝いならば誰より先に部屋に入り、誰より後に部屋を出る。しかし千秋の条件とは逆だ。 しかしそれが占いの作法とすれば約束は守るしかない。 「それじゃあ、おやすみなさい。荷物を届けてくれてありがとう」 「はい。おやすみなさい」 こうなっては彼方も明日早起きせねばならない。早めに寝ようと、彼は静かに自分の部屋へと戻ったのだった。
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