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「……足の不自由な理由についてはわかったか?」
「ううん、知らない。その理由まで調べていいものか、迷ってて」
足の不自由を知った時でさえ彼方は少しだけ後悔した。不自由の理由は使用人に聞けばすぐわかる事だろうが、それでも調べる気にはならなかった。
「じゃあこれは俺の独り言な。お嬢さんはお前くらいの年の頃、足を切りつけられたんだ」
「誰にっ?」
独り言であるはずなのに、探る事に迷いもあったのに、彼方は真っ先にそう尋ねた。
彼女に危害を加えるものが単純に許せなかったのだ。
「母親だよ。桜花奥様。足が不自由になるようわざと傷付けたんだ。でもそれは本人的によかれと思ってやった事で、虐待のつもりじゃない」
「人を不自由にしておいて?」
「断食とかあるだろ。修行とかのそれだ。制限する事や苦しい事ってのは霊力上げたり悟り開いたりして修行になるんだよ」
彼方は青くなる。母親が血のつながった子供を傷つける事だって彼は理解できない。
しかもそれが娘の力を高めるためだなんて信じられなかった。
「そもそも奥様は当時に能力を無くして悩んでたんだ。あれは老いやささいな事でなくなるもんらしい。それで娘の能力だけは長く続くようにしたかった」
「足を切ったって確実に能力が続くわけないじゃないか」
「いや、そうでもないぞ。人間追い詰められれば力を増す。足に障害があれば、お嬢さんは占いでしか生きられないと思うようになる」
それが当たり前のように茜は言う。歩けない足では普通の一生など簡単に送れない。生きるためには占いをするしかない。占いがなければ自分は死ぬ。
そう思い込ませる事が桜花の狙いだった。
死を目前にすれば無意識に自分を守ろうと、能力を維持できるという話なのだろう。
「現に奥様は結婚して、可愛い女の子を産んで、それが順調に育って、だから安心しちまったんだろうな。その時に能力を無くしたんだ」
彼方はもう何も言えなくなった。桜花もきっと思い悩んだはずだ。
なにせ彼女は能力を取り戻すべく修行して死んだのだから。子供に不幸な思いをさせたくなかった、という親らしい感情は確かにあった。
しかし迷走して娘の片足を障害に残る怪我をおわせる選択を選んだ訳だが。
「そういう訳だから、お嬢さんは彼方との結婚に対してこんな勝負をしかけたんだ。ただでさえ厄介な身の上なのに、足まで悪い女と結婚できるか、なんて問うためにな」
彼方が秘密を諦めればそれでよかった。真実を知って諦めてくれても構わない。それが普通だし、彼方ももう夢みたいな事を言い出す事はないだろう。
茜は証人として、最後の確認をする。
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