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「だから、浮気なんてしないってば。それより先に秘密をなんとか見つけないといけないんだよ」
「秘密かぁ……お嬢さんもなかなかきつい勝負を持ちかけるもんだ。こういう勝負が好きにしたってやりすぎだろうに」
「……そんなに僕は不利なの?」
「不利っつーか。多分お嬢さんはお前が秘密を見つけたとしても婚約破棄するって思ってるだろうな」
「だから浮気なんてしないってば」
「お前が飽きっぽいとかそう言う事じゃねーよ」
だったら何なんだ。彼方は茜を睨み付ける。しかし茜にはまったく効かず、それどころか同情された。
「俺からもヒントをやろう。お嬢さんの秘密ってのは『知れば彼方が躊躇する事』だ」
「ちゅうちょ?」
「多分、彼方は後で嫌になって婚約破棄する。だからお嬢さんはこんな勝負を持ちかけたんだろーなー」
結婚相手として、彼方が嫌がるような事が秘密という事になる。やはりどちらにも信用はされておらず、それをクリアせねば信用は得られない。
「なんか、ヒントは集まってきたかも」
自分が信用されてない事はまた判明したが、彼方は落ち込まずまとめる。湯船につかってほかほかした頭はよく働いた。
千秋の秘密。
・皆が知っていておかしくない事。
・それが秘密だなんて思いもしないような事。
・彼方は知らない事。
・長い付き合いなら気付く事
・知れば結婚が嫌になるような事。
「つまり、秘密って千秋さんの直したいところなのかな」
「どうだろーなー」
歌うような言葉が浴室に反響した。誤魔化すような茜の言葉はいい線いっている証だ。
「この場合の秘密ってのは『その人だけには絶対知られたくない』って事なんだろうなー」
雑談のようでわざとらしい言葉はヒントのようだった 先ほどから引き続き、千秋はヒントをよくくれて彼方の味方をしてくれているのは明らかだった。
「茜さん、ありがと」
「気にすんな。火事の後片付けであんまり構えないが、彼方は好きにやれよ」
茜は彼方の濡れた頭をわしわしと撫でた。
「火事の片付けって大変なの?」
「うーん。敦也さんの遺品を集めたり被害を確認してんだが、ほとんど燃えてるからな」
「タバコってこわいね。僕の二人目のお父さんもタバコ吸ってて、絨毯焦がしてお母さんに叱られてたよ。なんでタバコなんて吸うんだろ」
「俺はタバコはやった事からわかんね。けど中毒性があるんじゃないか?」
タバコ『は』。そこに彼方はひっかかるが、ここは空気を読んで深くは聞かないことにする。
「でも本当、良いことなんて何もないよね。高いし臭いし、吸わないとイライラするんでしょ。僕、春頃に敦也さんからタバコ買いに行くようにどなられちゃったよ」
「そりゃあ災難だったな」
「近くのお店だって歩いて二十分はかかるし、夜中だし、タバコっておつかいでも子供には買えないのに」
その時彼方はそれらの理由から断った。しかしそんな常識で納得しない敦也は怒鳴りつけた。
そこへ彼方の母が入り彼女が買いに行く事で解決したが、彼方にとってはタバコにも敦也にも悪い印象しか残らない。
「まぁ、敦也さんはいつもそうだからな。タバコも能力に悪いってのにやめやしない」
「タバコって、能力にも悪いの?」
「知らねぇけど、ヤニくさい占い師と線香くさい占い師なら、線香くさい方を信用するだろ」
彼方は一般人の立場で考え頷いた。
千秋が言うには未来予知はずば抜けた頭脳労働であって、タバコなどはあまり関係ないかもしれないが、そんな事知らない一般人は見た目で判断する。
千秋が黒髪をひたすら伸ばし淑やかに着物で過ごすのも、見た目で信用されるためだ。肩やら足やら出した茶髪の占い師なんて信用されない。
しかし彼方は脳内の千秋が流行りの衣服を着るの想像して、あまりに似合うものだから、のぼせ気味の頭がさらにのぼせた。
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