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最終話 逢いたい、あなた
「オーストラリア」
「ああ。チームに取っては痛いが。お前の夢だったもんな」
チーム関係者は新垣の新天地に涙していた。彼は何も言えずに事務所を出てきた。
この足で故郷のイベントにでた彼は、夜、実家に泊まった。
「今度はオーストラリア?」
「ああ、来月には行くって」
「浮かない顔だね」
彼の母は、ブルーな顔の息子の隣に座った。
「もしかして好きな子でもいるのかい」
「……今回の試合が終わったら、告白しようと思ってた」
「しなさいよ!早くに」
さらに相手がすみれだと知った母は、息子の背をバン!と叩いた。
「指輪でも買ってさ。待っていてくれませんかって、頼んでおいでよ」
「でも。いつまで向こうにいるかわかんねえし……」
「そうか。まだ一緒に来てくださいっていう関係じゃないんだろうしね」
しんと黙ってしまった二人に、彼の二人の兄貴が顔を出した。
「話は聞かせてもらったよ」
「とにかく。気持ちは伝えたほうがいい。お前は今、人生で一番輝いているんだから」
酒を飲んで寝落ちした父抜きで家族は彼の相談に乗ってくれた。
「母さんもそう思う。向こうの答えを聞かないと、お前もラグビーに専念できないよ」
「母さん……」
「母さんだけじゃないよ?お兄ちゃんたちも、お前が金目当てのアイドルにたぶらかされないか心配しているんだ」
「そうだぞ。でもその彼女なら安心だよな」
「まずは告白してこい。俺たちはお前を応援してるよ」
「ありがとう」
父以外の家族に背を押された彼は群馬に戻ってきた。指輪は銀座で買ったもの。これを持参して彼はすみれを呼び出した。
しかし。その場にきたのは三田村だった。厳しい顔の彼は頭を下げた。
「どうしたんですか」
「新垣さん。すいません。こっちで事情を話します」
三田村は新垣を車に乗せてドライブを始めた。
「あのマンション見えますか?」
「火事の後ですね」
「夏目の住んでいた部屋なんですよ」
「え」
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