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やがて三田村はとある病院に車を停めた。降りた二人は夕暮れの風の中で話をした。
すみれが好意を抱かれた相手から勝手に婚姻届を出されたこと。相手と揉めて裁判になった話を三田村は説明した。
「そして裁判では夏目は勝ったんですよ」
「だったらどうして」
「相手の奥さんが情緒不安定になってしまって」
ある夜。すみれの部屋を放火した事件を起こしてしまったと三田村は暗い顔で打ち明けた。
「今、すみれさんは?」
「命に別状はないんですが、顔に火傷をして……」
「嘘だろ?」
新垣は彼女の悲劇に頭を抱えてしまった。
「新垣さん?」
「知らなかったとは言え。ショックです。自分のことしか考えていなかった自分に」
「それは違います!夏目は元気になったら、逢いたいと言っているんです」
三田村は必死に新垣を励ました。
「俺だって、あいつが好きです。でも。夏目は、夏目は新垣さんに元気な姿を見せたいと言って、今は手術に耐えているんです」
「……」
「巨人さん!あんた。しっかりしなさいよ!」
振り向くとそこにはミイがいた。
「今は会えないだけさ。すみれちゃんはすぐに元気になるよ」
「ミイさん」
「辛気臭い顔して。あんたはそれでも日本代表かい」
「……今は、どうしても会えないんですね」
すみれは皮膚の移植をしたので感染症の恐れがある。このため誰も会えないとシワだらけの顔のミイは話した。
「わかりました。自分はこれからオーストラリアのチームに行くことになりました」
彼は上着のポケットからさっと指輪の入ったケースをミイに見せた。
驚きのミイは寄り目になっていた。
「私に?」
「すみれさんです……自分も逢える日まで頑張ると、お伝えください」
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