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「美咲ちゃんに、彼氏が出来たらしい。」 「ああ、らしいな。」 スナック菓子をつまみながら、俺がおざなりに答えると、イラついたのかスナック菓子の袋をひょいとつまんで持ち上げながら兵藤が言う。 「らしいって、双子だろ?話し聞いてるんだろ?」 苛立ちもそのままという感じで詰め寄られる。 事実、双子の妹である美咲からは一週間ほど前に彼氏が出来たとはにかみながら報告された。 だが、それがどうした。 詰め寄られたまま、見つめあう形となる。 不意に、目尻のあたりを指先で撫でられた。 「さすがに、双子なだけあってよく見ると目もととか美咲ちゃんに似てるな。」 「二卵性だぞ?普通の兄弟と変わらないだろうが…。」 「まあ、そうなんだけど……。なあ、お前の事抱かせてくれねー?」 兵藤の口から出た言葉の意味が分かった瞬間、頭が真っ白になったが何とか手を動かして適当な力で兵藤の頭をひっぱたいた。 「ふざけてんじゃねーよ。」 「えー、だって咲哉、俺の事好きだろ?ならいいだろ?」 「それとこれとは話が別だろ?俺、恋人意外とSEXする気ねーぞ。」 話は終わりとばかりに兵藤に取り上げられていたスナック菓子の袋を取り返し食べ始める。 兵藤は「まあ、それほど咲哉って俺の事好きじゃないしね。」等とまだ、ぶつぶつ言っている。 はっきりいって煩い。 「……そもそも、お前俺が身代わりでもいいから抱いてなんて言った日には、俺の事軽蔑すんじゃねーのか?」 少しだけ恨みがましい口調になってしまった事は許して欲しい。 「さすが咲哉!俺のこと良くわかってんじゃん。」 「何年幼馴染してると思ってるんだよ。」 くつくつと笑う兵藤をみて俺もニヤリと笑った。 ◆ 兵藤の家を出て、全速力で道を走る。 ドクドクと心臓の音がするが、走っている所為なのか、それ以外の理由なのかなんて考えたくもない。 家に帰りつくと一目散で自分の部屋に入る。 バタンとドアを閉めたところで、緊張の糸が完全に切れてしまいズルズルと座り込んだ。 「くそっ。」 涙が、あふれてきた。 自分でも、馬鹿じゃないかと思う。 なんで、 なんであんな奴の事が好きなんだろう。 抱かせてくれねー?と聞かれた時思わず頷きそうになってしまった。 そりゃーそうじゃん。 ずっと好きで好きで、10年も片思いしてるやつから体だけでもって言われて、それにグラリと来ない方がおかしいに決まってる。 でも、分かってる。それだけは絶対にしてはいけない。 そもそも、高校に上がってすぐに告って振られてるんだ。 俺の気持ちを知らないで体の関係っていうのとは訳が違う。 実際、軽蔑すんだろ?と聞いた時のあいつの顔。 YESと言わなくて本当に良かった、まだ、幼馴染として近くに居る事は出来る。 告白は普通にして、その後も何事も無いように過ごしているから、兵藤は俺の好きは友愛プラスアルファ位な物だと思っていようだ。 本当は、本当はそんな生易しい物じゃなくて、クソ重たいとしか言えない感情だけど、そんなこと俺だけが知っていれば充分だ。 重すぎて、もうこの気持ちの整理の仕方すら分かんねーんだ。 ボロボロと流れ落ちる涙もそのままに「好きだ、好きなんだよ。」と誰にも聞かれる事のない思いをひたすら呟いた。
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