序章

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序章

あの日からどれだけの時間が経過しただろうか。寝ても覚めてもあの日のことが鮮明に蘇る。絶対に忘れてはならないあの日の記憶。  僕はずっと嫌な思いを背負わなくてはならない。気持ちが晴れるのは永遠に訪れない。唯一訪れるとしたらたった一つ。奴をこの手で殺すことだ。 「真斗。私、夢があるんだ。将来は教師になりたい。生徒としっかり向き合える先生。 それが私の夢。可笑しいでしょ?」  彼女の夢は毎回変わる。いくつもの夢を持っているのだ。  僕はいつも「君なら必ずなれるさ」と言ってあげる。決してバカにはしなかった。僕はそう、信じていたからだ。彼女には何にでもなって欲しかった。僕はそう願っていた。  しかし、ある日を境に彼女の夢は一生叶えることは出来なくなってしまった。そう、彼女はもうこの世に存在しない。どこにもいない。帰ってくることもない。永遠に。夢だってなんの意味も持たない。どうしてこうなってしまったのか悔やんでも悔やみきれない。  人が目の前で死ぬのを見た人は何割いるだろうか。普通に生きていたらそんな多くない。しかし、僕はその何割かに入っている。忘れたくても忘れられないトラウマものである。救えなかった自分が憎い。僕は自分自身が嫌いだった。消えて無くなりたいくらいに嫌いだ。顔も見たくない。誰にも会いたくない。僕はずっとそうやって生きてきたんだ。
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