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現在(七)
「岡嶋さん、車持っていないんですね」
「バイクはある」
「バイクなんて怖くて乗れません」
「簡単だよ。乗り方教えるから」
紫織ちゃんは文句を言いながらもバイクに乗った。車に乗せてもらって優雅に帰る予定だったみたいだが、僕がそれを阻止したみたいだ。
「大体、二十代後半なら車の一つも持っていてもいいと思うのですが」
「必要性がないだけだよ。どうせ乗せる相手もいなし一人で乗るだけならバイクで充分だよ」
「確かにそれは言えているかもしれませんね」
紫織ちゃんは正直だった。
向かった先は僕の地元がある隣の県である。バイクで三十分から四十五分の距離である。
「この辺で大丈夫です」
僕は近くのコンビニにバイクを停車させた。
「わざわざ送って頂きありがとうございました」と、紫織ちゃんはお辞儀をした。
「いえいえ、気をつけて帰るんだよ」
「そうだ、岡嶋さん。明日暇ですよね」
「いや、忙しいけど」
明日は家でゆっくりするという大事な予定がある。紫織ちゃんの訪問のせいでまともに休息がとれていないのだ。
「嘘ですね。あなたに予定なんてある訳ないじゃないですか」
「君、随分失礼だな」
「と、言う訳である場所に連れていってほしいです」
勝手に話が進んでしまった。
「ある場所?」
「それは明日のお楽しみです。そうですね、明日の九時にまたここに迎えに来てください」
「どうして僕がそんなことを」
「デートですよ。小学生と遊べるなんてロリコン魂が疼きませんか?」
「僕はロリコンじゃない。大体、親が心配しないのか」
「大丈夫です。明日はお母さん仕事だし、例のあの人も休みで家にいると思いますので」
要は家に居たくないと言う訳か。家に居たらまた父親に何かされる。そう思うと少し可哀想な気がした。
「友達と遊ばないのか?」
「友達は家族サービスがあるので忙しいみたいです」
「家族サービスは普通、普段仕事で忙しい父親が使う言葉だと思うけどね」
「では、そういう訳で明日、またここでお願いします。後、お金は多めに持って来て下さいね」
「完全にたかる気満々だな」
「はい! では、また明日。バイバイ」
紫織ちゃんは笑顔で手を振りながら帰っていく。僕はその姿を見届ける。
また、面倒なことに巻き込まれてしまったようだ。僕の大事な日曜日を一人の少女によって潰されようとしていた。しかし、紫織ちゃんは謎が多い。自称、菜穂の生まれ変わりだと言うし、殺したい人がいると言う。明らかに普通の少女とはかけ離れている。その謎めいたところが興味深かった。知りたいと言う思いがあった。だからもう少しだけ少女に付き合ってみよう。
僕はヘルメットを被り、走り出した。
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