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過去(七)
「…………」
「あ、起きた」
僕が目を覚まして最初に目にしたのは菜穂の顔だった。
「ここは?」
「病院だよ。やっと目を覚ましてくれたんだね。すごく心配しちゃった」
僕はどうして病院のベッドで目が覚めたのか、すぐに思い出した。
「菜穂! 無事か? どこも怪我をしていないか? 痛……」
「起きちゃダメ。私は無事だよ」
「そうか。それは良かった」
「何も良くないよ。どうしてそんな無茶したの? 殺されたかもしれないんだよ」
僕は自分の身体を見てことの重大さを目の当たりにする。頭は切り傷があるのか包帯で巻かれている。左腕と右足は骨折しているのかギブスで固定されて動かせない。それに腹や背中にも痛みがあり痣だらけになっていた。とにかく全身が悲鳴を上げていて痛い。どこを動かしても痛かった。
「全治二ヶ月だって。真斗、三日間も眠っていたんだよ」
「そっか。僕はいいんだ。菜穂がいるだけで」
「よくそんなことを言えるね」
菜穂の口調は暗く怖かった。
「菜穂、どうしたの?」
「私は悲しいよ。真斗がこんな目にあっていいはずがない。下手したら死んでいたかもしれないんだよ? 分かっているの?」
この時の菜穂は一番怖かったかもしれない。全力で僕を叱ってくれた。
「菜穂、ごめん」
「約束して。二度とこんな真似しないって誓ってよ」
「分かった。もうしないよ」
「それでよろしい。ちょっと待っていて。看護士さん呼んでくる」
菜穂はにこやかにその場を離れた。しかし、その後ろ姿は重くなっていたのかもしれない。辛い思いをさせたのは僕の責任である。もう二度と菜穂にこんな思いをさせてはならない。僕はそう誓った。
龍虎たちはその後、どうなったのか僕は知らない。一説には再び少年院送りにされたとか噂では聞いたが実際にどうなったか知る由もなかった。あれから二ヶ月が経ち、龍虎たちの接触はなく僕は無事に退院することが出来た。手足の骨折は治ったが、身体の痣は簡単には消えない。おそらく一生残る傷になるだろう。
そして年が明け、冬を迎える。
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