過去(三)

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過去(三)

テスト期間はまだ続いていた。校内はどこもかしこも勉強モードに入っていた。周囲は勉強の話で必死の中、僕は菜穂と廊下で昨日の続きについて喋りながら歩いていた。 「昨日の件、誰にも言っていないでしょうね?」 「昨日? 何の件?」 「惚けないで。私の夢の件だよ」と、菜穂は僕の耳元に囁く。 「言わないよ。そもそも言うような人いないし」 「ちょっと待って。それって言うような人がいたら言うって捉え方もできるよね?」 「例えいてもそんなこと絶対に言うもんか」 「まぁ、別にいいよ。中学生の夢なんて可愛いものだから」 「言われたいのか言われたくないのかどっちだよ」 と、その時だった。出会い頭に僕は誰かとぶつかってしまった。相手は走っていたようで僕の身体で跳ね返り、大きく尻餅をついてしまったようだ。 「うわ! アタタタ」  ぶつかった相手はメガネにオカッパのひ弱そうな男子学生である。ぶつかった拍子に彼の鞄の中身が散乱してしまった。 「ちょっと、あんた。廊下は走らない。基本でしょ?」  菜穂は優しい口調で言ってあげる。 「ごめん。急いでいたからつい」  男子学生はペコペコしながら立ち上がる。 「ん? 何か落としているよ? 封筒?」  僕は拾ってあげるとそれを見た男子学生は物凄い勢いで僕の手から封筒を奪い取った。 「触るな!」  怒鳴るように男子学生は言う。まるで人が変わったかのようである。 「あんた、せっかく真斗が拾ってあげたのに何よ、その態度」  菜穂はさっきまでの穏やかな口調とは違い、噛み付いた。  しかし、男子学生は無言のまま、そそくさとその場を立ち去って行った。 「何よ、あの態度。嫌な感じ」  菜穂を見えないように舌を出した。 「真斗、どうしたの? 浮かない顔をして」 「いや、さっきの封筒。現金が入っていた。多分枚数的には五十枚くらい」 「え?」 「見間違いかもしれないけど確かに札束のように見えた」 「仮にそれが本当だとしたら不自然ね。中学生で大金を持ち歩くには危険すぎる」  菜穂は腕を組みながら呟いた。 「あれじゃない? 塾の費用とか」 「だとしても親が大金を中学生に持たせる? 普通振込みが主流だと思うけど」  菜穂の言う通りだった。確かに言われてみれば不自然であった。 「あっ!」と菜穂は思いついたように言った。僕も先日、菜穂と話していたことを思い出した。 「真斗。気付いた?」 「まさか、あれのこと?」 「そうだね。そのまさかかもしれない。いっせーので言うよ?」 「うん」  いっせーのと息を合わせて僕と菜穂は口を揃える。 「「暗黙恐喝!」」    彼の名前は佐々木翔太。一年二組。テニス部所属である。僕と菜穂にはどこにも接点はなかったが、調べてみると学校では特に目立った様子はなく物静かな生徒だと言う。つまり、どこにでもいるような極普通の生徒である。特に問題行動もなく事件を起こすような生徒ではない。  そんな彼が何故、学校に大金を持ち込んでいるのだろうか。それにその大金はどこから手に入れたものだろうか。謎は深まる。 「ねぇ、本当に封筒の中身は現金だったの?」 「チラッと見えたけど、間違いなくあれは現金だった」と、僕は言い切った。  僕と菜穂は帰宅路、佐々木翔太の後を尾行していた。僕はどうでも良かったが、菜穂の謎の正義感が許せなかったようだ。  僕とぶつかってすぐのことであり、菜穂の好奇心は止まらなかった。一人で行かせるのもどうかと思い、僕も尾行することになった次第だ。 「さぁ、今こそ暗黙恐喝の実態を暴くわよ」  菜穂は探偵になったつもりでテンションが上がっている様子である。それに僕は巻き込まれてしまった。そんなドラマのような展開はそうそうないが、万が一というのもあり得る。 「佐々木君、どこに行くつもりかな?」と僕は呟く。  学校から離れて商店街まで来ていた。狭い路地に入り、段々と人通りも少なくなってきた。僕の予想通り塾に行ってくれればそれに越したことはないが塾に行く様子はない。  佐々木君は周囲を気にしながらあるビルの中に入って行く。廃ビルのようで今では誰も使われていないような建物だった。鍵が掛かっていないところを見るとかなり頻繁に出入りをしているのかもしれない。 「ついに取引場所を突き止めたわよ。さぁ、乗り込むわよ」 「待った。菜穂」  僕は菜穂の肩を掴んだ。 「真斗。どうしたの?」 「何だか嫌な予感がする。これ以上、関わるのはよそう」 「嫌だ。私は絶対に秘密を突き止める。嫌なら先に帰ってもいいよ」  菜穂を一人にさせるのはもっと危険だった。と、言っても菜穂の正義感を止めることはできなかった。僕は仕方がなく前に進むことに決めた。  中に入るとカビや埃臭く人の出入りが余りないのが見て分かった。扉を開けてすぐに地下に続く階段が出迎えていた。ゆっくりと降りると真っ暗で周囲がよく見えなかった。  奥に進んでいくと急に広い空間があり、人の話し声が聞こえたので階段付近で立ち止まった。菜穂が前で僕がその後ろの立ち位置である。菜穂は鞄から手鏡を取り出し、鏡越しで奥の様子を写した。 「龍虎さん。失礼します」  佐々木君は律儀に頭を下げている様子が映し出された。誰かと話している様子だった。 「いやぁ、待っていたよ。佐々木君。例のモノは持ってきてくれたかな?」  佐々木君の奥を鏡で照らすとソファーに腰がけるのは顔が整った誠実で真面目そうな学生である。おそらく僕たちと歳は変わらない。他校の生徒だろうか。この男と佐々木君はどのような関係か。しばらく様子を見ることにした。  菜穂は徹底的な証拠を納める為にスマホを録音機能に切り替えた。 「龍虎さん。持ってきました。どうぞ」  佐々木君は鞄から例の封筒を出して龍虎という男に手渡した。受け取った封筒の中身を確認し、枚数を丁寧に数える。 「確かに。金額は合っているようだね。ところでこのことは誰にも言っていないだろうね?」  龍虎の質問に対し、一瞬の間が空いて佐々木君は「はい」と答えた。 「君、嘘を付いている?」 「嘘だなんてとんでもないです。それよりも龍虎さん。約束ですよ。僕は約束通り耳を揃えてお金を用意した。あなたも約束を守ってこれで僕を助けて下さい」 「佐々木君。悪いがその約束は守れない」 「話が違うじゃないですか! お金され払えばあいつらを退学にしてくれるって言いましたよね?」 「あぁ、確かに約束した」 「だったら何で」 「このやりとりは他言無用にすること。破れば『依頼された内容を自分自身で受ける』だったよね? 君は過ちを犯した」 「どういうことですか」  佐々木君は取り乱すように言う。 「いつまでそこに隠れているつもりかな? 大人しく出てきなよ」  龍虎は僕たちの方向に向かって呼んだ。存在がバレていた。  菜穂は正体を現した。 「菜穂、バカ」と小声で言うが遅かった。菜穂は手で来るなと僕に静止した。  僕は身を潜めた。 「佐々木君、これはどう説明してくれるかな?」 「君は確か」  佐々木君は菜穂の顔を見て思い出したようだ。 「あなたが主犯格ね。弱い人からお金を巻き上げるなんて良いことだと思っているの?」  菜穂は龍虎に指を差しながら言った。菜穂は怒りが声の高さを強調していた。 「君は誰? 佐々木君の知り合いかな?」 「ただの同級生よ」 「ふーん。君、可愛いね。僕の彼女にならない? そうしたら今回のことはなかったことにしてあげてもいいんだけどな」 「お断りよ! 彼氏は募集していません」 「そうか。君は僕に反発したいようだね」  龍虎は落ち着いた口調であるが、感情に怒りを感じた。 「さっき録音か撮影していたデータは削除してもらえないかな? 君のスマホに入っているんだろ?」 「嫌よ」 「なら仕方がないな。君はここから返す訳にはいかなくなった」  龍虎は座ったまま、落ち着いた様子で言った。全く焦る様子はなく何処と無く余裕が感じられた。この状況で何か策でもあるのだろうか。 「君は何か勘違いをしているようだから言うけど、僕は何も彼から金を巻き上げている訳ではない。依頼を受けてお金を受け取っている。これは立派なビジネスだよ」 「ビジネス? あんた、中学生でしょ? こんなことして許されると思っているの?」  菜穂は噛み付くように言う。 「佐々木君も佐々木君だよ。何でお金を渡してまで依頼なんかしたの?」と菜穂は聞く。 「っていろ」 「え?」 「部外者は黙っていろって言ってんだよ」と小声で佐々木君は呟く。そして、続けて言う。 「何も知らない部外者が僕の気持ちなんて分かるはずない。ハイエナみたいに関わってくるんじゃねーよ。僕は奴が許せない。だからお金で解決が出来るなら安いものだ。君が一ミリも入り込める隙間なんてないんだよ」  物静かな印象だった佐々木君は人が変わったように声を荒げた。 「話が見えてこないけど、話の流れから察するに用は、佐々木君は誰かに虐められている。でも自分の力ではどうにもならない。だからお金で解決しようと龍虎に依頼をしたってことでしょ? 違う?」  菜穂は自分なりに推理したことを言った。 「だったらどうした!」  佐々木君は菜穂に向かって睨めつけた。図星と言うことだろうか。 「で? 龍虎。あんたその依頼ってやつを引き受けてどうやって解決するつもりだった訳?」と菜穂は聞く。 「龍虎さんだろ? こう見えても僕は十五歳。君たちより年上なんだけどな」  龍虎の発言に僕と菜穂は驚く。その幼い見た目で年上だったのか。十五歳といえば中学三年生、もしくは高校一年生と言うことになる。どっちにしろ見えない。 「解決策は勿論、用意してある。力だ!」  龍虎は指パッチンをした。すると、その音と共に奥からゾロゾロと龍虎の周りに男が集まってきた。その数は五人。龍虎と違って顔つきが悪くチャラチャラした見た目だった。おまけに皆、体格が良い。喧嘩したらおそらく強いことは見て取れた。 「彼らは僕の手下だ。君をここから返す訳にはいかないと言う意味を理解してもらえたかな?」 「何をするつもり?」と菜穂は聞く。 「簡単なことさ。僕たちに逆らえないように弱みを握らせてもらう。やれ!」  龍虎は男たちに合図を送ると男たちは一斉に菜穂に向かって襲ってきた。絶体絶命の時だった。  僕は我慢できず飛び出した。 「菜穂、逃げるぞ」  僕は菜穂の腕を掴んで階段を駆け上った。 「チッ! もう一匹いたか。お前ら、絶対に逃がすなよ」  龍虎は罵声を言いながら仲間に指示をする。 「さて、佐々木君。君の相手は僕が自ら行おう」 「やばい、やばい、やばい」  僕は走りながら焦っていた。五人の男たちは「待て! オラ!」と言いながら追いかけてくる。待てと言われて待つ人はいない。しかし、分かっていても言ってしまうものだとつくづく思う。  ソフトボール部である菜穂は僕に負けずと脚力があった。息が乱れていないのでまだ余裕の様子だった。 「真斗。ごめんね。私が変なことに首を突っ込んだばかりに」 「謝るのはここを切り抜けてからにしてくれないか」 「うん。どこかに隠れよう」  とは言うものの、近くに隠れられそうなところはない。早くしないと体力が尽きて捕まってしまう。 「菜穂、こっちだ」  僕は咄嗟にある店に入った。そこは町の洋服屋だった。僕は適当に服を持って菜穂と共に試着室に入った。  密室で狭い空間に息を潜める僕と菜穂は汗が止まらなかった。怖い男たちに見つかるのではないかとヒヤヒヤしていた。もし、このカーテンを開けられたら僕たちは終わりだ。 「ねぇ、真斗」と菜穂は小声で言うが、僕は菜穂の口を手で抑えた。誰かの足音がこちらに近づいていたのだ。次第に足音は目の前で止まった。絶体絶命だった。 「あの、お客様?」と女性の声がした。菜穂がカーテンを開けると目の前には困惑した女性店員が立っていた。不審そうに僕らを見ている。店員からしたら男女で試着室に入れば不思議がるのも無理はない。 「あ、すみません。これ合わなかったみたいですので返しますね」  菜穂は僕が取った男物のパーカーを女性店員に返して試着室を出た。女性店員は何か言いたそうだったが、僕と菜穂は逃げるようにして店を後にした。幸い、店の外には男たちはいなかったが、近くにいるかもしれないので油断は出来ない。周囲を見渡し、左沿いを這うように移動した。 「ねぇ、真斗。これからどうするの?」  菜穂は不安そうに聞いた。  「僕たちは関わるべきではなかった。例え、今を乗り切っても奴らは必ず僕たちの口を封じに来るだろう。顔もバレたわけだし」 「じゃ、どうするの?」 「元はと言えば菜穂が絶対に秘密を突き止めるって言い出したのが悪いんだ。僕は辞めようって言ったのに」 「ごめんなさい」  菜穂は立ち止まり、俯きながら言った。本当に反省している様子だった。その様子に僕は強く言えなかった。  とは言うもののここからどうすればいいのか。警察に相談しようにも中学生の言うことに耳は貸さないだろう。それに事件の証拠がない限り警察は動かない。  いや、待てよと僕は思い出す。 「菜穂、盗聴していたデータは残っているか?」 「それならここに入っているよ」と、菜穂は自分のスマホを見せる。  僕たちは早速、交番に駆け寄りコトの発端を警察官に話した。 「って事なんです。これであいつらを捕まえてください」 「でも、その内容ではこちらも動けないよ」と警察官は面倒そうにあしらった。 「何故ですか。証拠ならここにあります」 「とは言ってもね、実際に事件が起きた訳じゃないし、こっちも暇じゃないんだよ」 「何かが起こってからじゃ遅いんですよ」 「真斗、もういい」  僕がムキになったところを菜穂は制した。 「お巡りさん。お忙しいところすみませんでした。お邪魔しました」  菜穂は僕の腕を引っ張って交番を後にした。 「おい、菜穂。なんで」 「あれ以上言ったらどのみち追い出されていたよ。それに呆れた」 「何が?」 「あれが、現実の警察官の姿だったって言うことに」 「理想と現実は違うさ。正義感で満ち溢れているのはドラマの世界だけ」 「確かに。でもみんながみんなそうじゃないはず。根気よく話していけば耳を向けてくれる人はいると思う。可能性はゼロと決まった訳じゃない」  菜穂は拳を握りながら大きく頷いた。  僕は菜穂が立派に見えた。菜穂ならその辺の男性よりも大きく成長するだろう。男女関係ない世の中に変えてくれるはずだ。 「だからね。真斗。私は……もう、逃げない」  その言葉に意味に僕は勘違いだったと言わせてほしい。 「佐々木君。龍虎の連絡先を教えてほしいんだけど」  翌日、僕と菜穂は佐々木君の人目の付かない学校の美術室裏に呼び出していた。 「ちょうど良かった。実は僕も彼に君たち二人を連れて来るように頼まれていたんだ」 「案内してもらえる?」 「中央緑地公園で今日の十五時に連れて来るように言われている。逃げたら個人情報をネットに流す。と言う伝言も預かっている。僕は行かないから二人で行ってくれよ」 「分かった。必ず行くわ」  菜穂が行くなら当然、僕も行くことになる。 「じゃ、伝えたから。僕にもう関わらないで」  佐々木君は逃げるように走って行くがその足取りはフラフラしていた。 「ねぇ、佐々木君は何かされたのかな」  菜穂のその後ろ姿を見て疑問を持った。 「どうしてそう思うの?」 「顔や首、手は無傷だけど服で隠れる部分に怪我をしているんじゃないかな? 痛みに耐えている様子だった」 「まさか、昨日僕たちが逃げたからその仕打ちを佐々木君が受けたってこと?」 「分からない。でもその可能性は高いかもしれない」 「だとしたらあいつを止めないとな」  僕は拳を強く握った。  約束の時間と場所に行くと龍虎とその仲間の男が五人待ち構えていた。  そして龍虎の足元にはボロボロの姿で倒れている一人の男子学生がいた。彼は確か学年が一つ上の二年生であり、学校で最も恐れられている不良。名前は確か毒島である。同じ学校なら一度はその名前は聞いたことがある問題児だ。 「やぁ、待っていたよ。警察には言っていないだろうね」  龍虎は余裕の笑みで言った。  僕と菜穂は黙っていると龍虎は何かを察したように言った。 「その様子だと警察は相手にしなかったようだね。悪い子だな」 「その人に何をした」と僕は怒りを込めながら発言する。 「あぁ、これ?」と龍虎は毒島の顔の上を踏みつけた。まるでゴキブリを踏み潰すかのように。 「別に何も。こいつさ、酷いんだよ。学校で偉そうにしてよく弱い者苛めをしていてね。一番被害があったのは佐々木君なんだ。だからね、少しお仕置きをしていたところさ。佐々木君の為でもあるけど、こんなクズに人権なんてないだろ。二度と地を歩けないようにしていたところだ」  龍虎は体重をかけてグリグリと靴裏を顔に擦り付けた。仲間の五人の男はそれを見て嘲笑った。 「あぁ、そうそう。君たちが昨日逃げたことで彼にはお仕置きをしといてあげたよ」  龍虎は一枚の紙を僕たちの足元に投げ捨てた。 菜穂が拾い上げると上半身裸の佐々木君の姿が写っている。胸や背中には鞭で叩いたかのように大きな傷が残っている。血だらけになり痛々しい姿だった。 「何よ。これ」と菜穂は震えるように言う。 「これで彼は一生僕に逆らえない永遠の奴隷という訳さ。こんなことになったのは君たちのせいなんだよ。本当に酷いよね」 「酷いのはどっちよ。あんたら、腐っているわ」と、菜穂は叫んだ。 「なんだと?」と龍虎は睨む。 「あんたらがやっていることはただの虐めよ。同罪だよ。自分たちが良いことをしているように言っているけど間違っている。何もかも!」  菜穂は吠えた。 「間違っていようが関係ない。君たちをここに呼んだのは他でもない。君たちはこいつのようになってもらう。二度と僕たちに逆らえないように一生の弱みを握られて生きていくしかないようにしてやるのさ。そうだな。君は女ということで全裸の写真で許そう。男の方はこいつと同様に屈辱的な姿で手を打つよ」 「やれるものならやってみなさい」  菜穂は挑発をした。 「言ったな。お前らやれ」  龍虎の合図で五人の男たちは動いた。その時だ。  カメラのシャッター音が三百六十度から鳴り響いた。フラッシュの嵐で五人の男たちは事情が飲み込めず怯んだ。 「こ、これは一体なんだ」  龍虎は混乱していた。  そう、急に現れたこの人集りでは暴行行為は行えない。 「お巡りさん、こっちです」  誰かが大声で言った。 「お前たち! 何をやっている!」  突如、警察官が現れた。その場に駆けつけた数人の警察官の手によって龍虎を主犯とする計六人は逮捕された。  現に毒島は瀕死の状態だ。現行犯逮捕である。その身柄はパトカーで連行された。 「うまくいったわね」と菜穂は満足げに僕に言った。 「何かしたの?」 「部活の仲間に協力してもらったの。今の時代はSNSが主流だよ。みんなに拡散してもらって面白いことが起こるって呼びかけたの」  菜穂は舌を出しながら言った。全ては菜穂が予想したシナリオになったようだ。 「流石だな」 「でしょ」  だが、この一件が菜穂を悲劇に巻き込む余興になるのだった。
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