一言

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一言

「エリカちゃん、これを受け取ってくれ!」 普段のデートより豪華なディナーを食べ終わった後に、目の前に出されたピンクの紙袋。 今日会った時から、彼がずっと大切そうに持っていたので内心いつ渡されるのかドキドキして待っていたのだ。 「えっ?コレなぁに、本当にもらっていいの?エリカ今日誕生日じゃないのに嬉しい!」 大げさに喜んであげながら、エリカはしっかり紙袋を受け取る。 紙袋はずっしり重かった。 中には箱が入っている。 「ねぇ、開けてもいい?」 エリカの頭にはブランドのカバンや靴が次々出ては消えていく。 「もちろん!」 エリカは胸をときめかせながら箱を開けた。 「えっ?なにコレ?」 「じゃーん!!とっても可愛い花だろう! アザレアっていうんだ!」 「・・・・へーー、ウン、カワイーネ。」 箱の中には白い花が鉢に植えられて入っていた。 一瞬、薔薇かなとも思ったが彼がなんか違う名前を言っていたので違う花なんだろう。 それより、中身がカバンや靴でないことにショックを受けていたエリカ。 半ば放心しながら、彼の話を聞く。 「こ、このアザレア本当にキレイだろう! いや、アザレアよりエリカちゃんの方がキレイだけどね!」 彼が鼻息荒く向かいの椅子から立って、エリカの横に立つ。 「でも、白いアザレアを選んだのは訳があってね。」 エリカの手を取る彼。 「花言葉は『あなたに愛されて幸せ』。 白いアザレアが純白のドレスに身を包んで幸せそうにしている花嫁を連想させるからなんだって。」 そして、彼は 「お、俺はエリカちゃんと出会えて付き合えて、本当に幸せです! エリカちゃんの純白の花嫁姿が見たいです! 俺と結婚して下さいっ!!!」 放心状態から抜け出せていなかったエリカは 「・・・チョットだけカンガエさせて」 と返事をした。 その後 彼と自宅近くで別れたエリカ。 「マジ、プロポーズに花とかないわー。」 エリカ的には、プレゼントはブランドのものが嬉しい。 食べ物は食べたらなくなってしまうし。 花は枯れる。 その点ブランドのものやアクセサリーは飽きたら売ることもできる。 「そういえば、私プロポーズされたんだよね?指輪ももらってないのにー!」 エリカは紙袋に入った白いアザレアを睨み付ける。 「しかも、地味に重たい。」 エリカは自分の部屋に帰ると、アザレアをその辺りに放り投げた。 放り投げられたアザレアだが、鉢は床に打ち付けられることなく着地する。 洗濯されていない衣類や食べ終わったコンビニ弁当などがある山のひとつにアザレアは置かれた。いや、捨てられたのだ。 ろくに足場のない汚い部屋。 それがエリカの部屋だ。 そう、エリカはまったく片付けられない女だった。 エリカは唯一キレイなベッドに倒れ込んで、そのまま寝息を立て始めた。 窓の方にもゴミの山が積まれており、カーテンは永遠に開けられないのではないだろうか。 きっと水も与えられず、埃をかぶりながら自分は枯れていくのだろう。 絶望的な気持ちでアザレアは呟く。 「この人とは一緒に暮らしたくない」と。 おしまい
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