闘え!リランディア

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   プロローグ☆超人リランディア   何かが落ちてくる! とっさに身を構えたが、『それ』がぶつかるのを避けられなかった。 俺の身体はバラバラに飛び散って、死ぬのがわかった。発狂しそうな意識が一瞬で途絶えた。  「参ったな……」 『それ』は頭をぽりぽりかくと、俺の身体をかき集めてどこかへ運ぶと、不思議な再生槽に入れて蘇生させた。 「俺はどうなったんだ!」 復活して正気に返ると、俺は顔面蒼白で自分の身体をまじまじと見た。 「我々と同じ能力を持って生まれ変わりました」 『それ』が言った。 「お前は誰だ!」 「リーランド星人のリラ」 『それ』は見た目は女の子だった。無機的な表情がどうしても地球人でないことを物語っていた。 「時間が無いの!宇宙商人サイデッカ星人が地球を狙っている!」 「サイデッカ星人?なにそれ?」 「ありとあらゆるものを売買するのが彼らの目的」 そう言って、リラが腕時計みたいなものをかざすと、空中にサイデッカ星人らしい男たちのホログラム影像が現れた。 『モウカリマッカ?』 『ボチボチデンナ』 『かけたりわったりできるけど、たしたりひいたりできないもんは?』 『茶碗!』 『ほな、それ買うた!』 「……普通に大阪のおっちゃん連中じゃないの?」 「いいえ!彼らは正真正銘宇宙人」 「どんな驚異があるんだよ?」 「地球を丸ごと他の宇宙人に売り付けるのが最終目的」 「なんだって?」 そりゃ確かにちょっと問題かな?俺はほけっと事の重大さがわからずにリラの顔を見た。 考えても見ろよ!一回死んじゃったんだぜ。大抵の事で驚くもんか。 「我々の母星リーランドも彼らの手によって売り飛ばされてしまった!私は彼らを阻止していずれ母星も取り戻すつもりです」 リラは真剣な眼差しで言った。 小一時間前まで高層ビルの屋上でリラとサイデッカ星人の闘いが繰り広げられていたらしく、その時足下を掬われたリラは落下して、不幸にも通りすがりの俺に激突したという。 「不可抗力です」 「そんなこと言ったって、俺の身体、どうにかしちゃったんだろ?」 「ごめんなさい。リーランド星人と同じ組織でできた身体に組み替えられて地球人ではなくなりました」 「……って、つまりどうなったんだ?」 「超人リランディアになりました」 「マジかよ!」 俺は頭を抱え込んだ。 まだ彼女いない歴18年の俺の将来を奪いやがったな…… 「責任とってくれ」 「そう言われても……」 言葉に詰まるリラ。 「俺と付き合って!」 「えっ?」 「んなの嘘に決まってるだろ!嘘!」 わたわたわたっ。からかわれたリラは意外とかわいらしい反応をした。俺はまんざらでもなく、リラと一緒にサイデッカ星人と相対する気になったんだ。 成り行きから仕方がないとはいえ、服が血まみれでボロボロだったから、アパートに帰って赤いTシャツとブルージーンズ、白の上着のいでたちに着替えてリラと行動を共にすることにした。  1☆サイデッカ星人 「ワシントン条約?なんでっかそれ」 「だから、絶滅危惧種を守る条約だよ!」 「珍しいものほど高く売れるんでっせ?」 「そーいうこっちゃなくてだなぁ」 頭痛がする…… 「口で言ってもわからないんなら拳で話すしかないようね!」 リラ!なんて好戦的なんだお前。 成り行きで俺も立ち回る事になってしまう。しかし、このサイデッカ星人というのは、のらりくらりこちらからの攻撃をかわしまくり、リラと俺はへとへとになった。 「ほな、サイナラ」 サイデッカ星人たちはドローンに似た乗り物に乗ってひょいと姿を消してしまった。 「おい、リラ」 「何?」 「作戦負けなんじゃないのか?毎回あいつらがなんかしよーとしたら俺らが止めに入って、あいつらは飄々として逃げて」 「本当に卑怯な」 「そーじゃなくてだなぁ」 俺ははがゆかった。せっかく超人リランディアになったのに必殺技のひとつもないと来てやがる。なにか手立てはないものか? 「俺は自分専用の武器とか乗り物が欲しい」 「じゃあ、これを。メンソーレ星人のポピュラーな武器です」 リラがそう言って俺に手渡したのはトンファーみたいな打突武器だった。普段は両袖の中に隠し持っていて、いざとなったらスライドして武器を出し、敵を打突攻撃したり、あちらからの攻撃を防御したりして使う。 どうやって訓練したもんかなー?と思っていたら、リラが短剣一本で相手してくれた。 はじめは気づかなかったが、リラは手加減が上手くて、俺はメキメキ上達していった。 乗り物は自宅から自転車持ってくる事になりそうだったから慌てて止めた。 なんでかって?だって、自転車にもピンキリあるじゃないか?マウンテンバイクとかかっこいいお高いのもあるけれど、俺のはただのママチャリなんだよ・・・ 「……そういや、サイデッカ星人は『宇宙商人』って言ったっけ?」 「はい」 「商人ってことは、商売するのが本懐だよな?」 「まあ、そうかも」 「じゃあ、商売で闘おうぜ」 「えっ、そんなんできるんですか?」 「吉本新喜劇かお前は?」 「吉本……何?」 「いや、いい」    2☆リラ 『・・・ところでそれほど大事な私たちの体なのですが、もしもこの体をお金に変えるとしたら、いったいいくらになると思いますか?もちろん、体そのままではお金に換算することはできませんので、体を他の品物に加工し、それをお金に換算するというのです。  では、私たちの体からどんな品物ができるのでしょうか?  まず、バケツ三杯の水がとれるそうです。さらに安い石鹸六個分の脂肪、鉛筆七百五十ダース分の炭素、徳用マッチ二箱分の鉄リン、薬一服分のマグネシウム、釘一本分の鉄、トイレの消毒一回分の石灰、食卓塩一本分の塩、コーヒー一杯分の砂糖、ノミを一匹暗殺する分の硫酸、以上の品物が私たちのカラダから加工されるというのです。  そしてそれをお金に換算すると、なんと締めて合計七百円。これが私たちの人体の値段だと、総理府の報告にありました。』(体の価値 より抜粋) 『米国『Wired』8月号記事   人体の値段は53億円=米誌調査 [ニューヨーク 2日 ロイター] 米ワイアード誌8月号は、人体を体液や繊維、免疫細胞など再生可能な部分に分解すると、1体当たりの値段は4500万ドル(約53億円)になるとの試算結果を発表した。不法で道徳に反し、不届きな意見だが、あくまで仮定の話。』 「なるほどなぁ」 インターネットをググっていて俺は溜め息をついた。 人間の体の価値を調べたんだが、たった700円。臓器売買とかの闇の手法で売ったらそこそこの値段にはなるが、今知りたいのはそんなこっちゃない。 これを相手に提示しても俺がこれからしようとしている取引が圧倒的に不利だってわかった。 『地球と人間一人の命は同等の価値がある!』 なんかで得た言葉なんだが、サイデッカ星人を納得させられなければ意味がない。 「はああ」 「溜め息ですか?一度溜め息をつくと幸運が逃げると聞きました。即刻やめてください」 「あのなあ、リラ?」 「はい」 「今のは溜め息ぢゃなくて、深呼吸だよ!」 「そうですか。すみません」 本当にリラはあっさりしている。普通、女の子ってもう少しいらんことを言うもんだが、リーランド星人って淡白なのか? 「リラ、お前さぁ、なんか頑なだけど訳でもあんの?」 肘で突っつきながら聞く。 「私は……」 ポロポロポロ…… リラの涙が流れて俺はぎょっとする。 「不可抗力とはいえ、なんの関係もなかったあなたを一度殺してしまったんですよ!平然としてられるわけないじゃないですか!」 「そんなこと……」 気にしてなんかいないと思ってた。 現に俺は今ピンピンしてるしどこもどうもないどころか、身体中に力がみなぎっている。まさかリラが責任を感じてたなんてつゆほどにも思ってみなかったんだ。 「わりぃ。リラ、もう過ぎたことだから気にすんな」 そう言ってリラの髪の毛をくしゃっと手でかきまぜた。    3☆リーランド星の現状 『モウカリマッカ』 『ボチボチデンナ』 『この星の資源はわんさかでっせ』 『例えばこの鉛筆の芯!炭素の塊をワイらの技術でちょちょいのちょいするとなんとダイヤモンドに変わるんでっせ!』 テレビのニュースでサイデッカ星人たちが色々やって見せて、誰もがサイデッカ星人たちに取り入ることを考えてたころ。 俺は無い知恵をしぼってサイデッカ星人とどうやって取引するかで頭を悩ませていた。 「……地球を売ったり買ったりするのが最終目的、つったって、なにとひきかえにするんだよ?」 なーんか忘れてやしないか?と俺は首をひねった。 そうだ。サイデッカ星人の使う「お金」は一体なんだ?まさか日本紙幣じゃないだろうし、ドル?でもない。通貨はなんだ?FXか?まさか天元? 価値はところ変われば品変わる。一体やつらは何に価値を付加するんだろう? 「リラちゃん?サイデッカ星人ってなんのお金使うの?」 「……リラちゃん?」 ちゃん付けしたのがよほどショックだったのか、リラは一瞬、絶句した。 「……ありとあらゆるものを売買するため、ありとあらゆるものを交換します」 気を取り直してリラはそう言った。 「なんやそれ?」 「石ころをダイヤモンドに換えて、ダイヤモンドをグランドピアノに換えて、グランドピアノを……」 「わらしべ長者か!」 「なんの事ですか?」 「つまり、なんでもないものに付加価値をつけて、取引相手ともっと良いものに取り換える」 恐るべき敵!サイデッカ星人。 それがとどのつまり、最終目的の地球の売買につながるわけか! 俺は一種の戦慄を覚えた。 そんなのに勝てる気がしない。勝てるわきゃない。 「リラ~、サイデッカ星人と闘うのやめようぜ~俺らだけでひっそり幸せに暮らそうぜ~」 「何を言うの!」 ばちん。ビンタされてしまった。 「私は故郷の惑星リーランドを取り返すの!」 ああ、そういえばそんなこと言ってたな…… 「サイデッカ星人のせいで私の家族はバラバラになってしまった!平和な生活が台無しにされてしまったのよ!」 「星を売買されてその程度で済むの?」 「その程度?」 「星を他の宇宙人に売り付けるんだろ?で?住人はどうなんの?奴隷とかになってこきつかわれるとか?」 「大勢の宇宙人が移住してきて住み着いたんです!」 「それだけ?」 「人口過密で星が衰退しました」 「……」 「のどかで良いところだったのに、今はスラム街になっています」 日本でのんびり暮らしてるから俺にはあんまりピンとこないんだが、本当に大変なことなのかもしれないと思った。    4☆交渉 サイデッカ星人がYouTubeの影像を撮影するのに使っている億ションの一室に俺とリラは駆けつけた。正面から行っても入れるところじゃなかったもんで(セキュリティ万全)地上30階の外からテラスにお邪魔した。 「まーたあんさんたちでっか」 「今日は闘うんじゃなくて、取引に来た」 『取引』という言葉にサイデッカ星人たちは顔を見合わせた。 「ホンマでっか?」 こころなしか声がよろこびで震えてやがる。 「どうせ、やれるだけやりつくしたら、地球をよその星に売り付けるんだろ?」 「そうでっせ」 「それをやめてもらいたい」 「そういうわけにはいきまへんな」 「お前らがやったことで困ってる人がいるんだぞ」 「ワイらには関係あらへん」 俺は深呼吸した。 「お前らがいっちばーん欲しいものと交換すると言ったら?」 「ワイらは欲しいもんはみーんな持っとる。そやさかいムリや」 俺はリラと手を繋いだ。 「俺とリラは仲良しなんだ。友だちなんだ」 「それで?」 「俺らと友だちになりたくないか?」 「……」 サイデッカ星人は黙ってしまった。 リラが何か言いたそうだったが、これは、いちかばちか、賭けだった。 「……それもオモロイかもしれへんな」 サイデッカ星人が言った。 「ええっ?」 リラが思わず口に手を当てて驚いた。 「洒落がわかるじゃん!」 俺はサイデッカ星人の手を握り、ぶんぶか振り回した。    5☆地球人は宇宙人? 「あーそびまひょ」 「今日は何する?」 「ヒヨコを進化させて違ういきもんにする」 「いいね!」 あれから毎日、新しいことをして過ごしていた。サイデッカ星人は子どもに高い人気を誇り、近所の子どもがよく集まってきていた。 「宇宙人怖くないの?」 「だって、地球は宇宙にあるでしょ?だから地球人も宇宙人なのよ!」 女の子が、ませたことを言った。 こんな風に『友だち』が居続ける限り地球は安泰だと思われる。 リラは、惑星リーランドの治安維持のために、地球の色んな国の政治を真似して良くすると意気込んでいた。 「リラ」 「はい」 ごにょごにょ。 聞こえたかな?聞こえてるといいが。 「いいですよ」 「ほんと?」 「ゆびきりしましょう」 約束だ。毎日を闘って生きていくんだ。 未来が俺らを待ってる。俺たちうまくやっていけるだろう。 俺とリラは固くゆびきりした。    おしまい
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