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もはやここまで来れば最後の一人に違いないだろう。
「なんで……アンタが!」
「……ずっと逃げて、隠れていた。卑怯かというなよ」
「言わないよ、マサト。でも、アンタの能力でどうなるの?」
目の前に現れた最後の一人。でも、体はボロボロだ。マサトは私の幼なじみ。高校生になってからは同じクラスになっても話すことすらなくなった。
そして、彼の能力は『足が速い』それだけだ。オウカ先輩の高速移動ほどではない。世間一般的な走る速度を一回り抜き出ている。自転車並みの速度で淡々と走れるくらいの低級能力。
「てか、なんで参加してるの? 好きな子でもできたの?」
「ちげぇーよ。お前を止めるためだケイ。あんな危ない能力。お前には必要ない」
「は?」
「こんな直前になるまで、何も言えなかった俺を許してくれ。俺はずっとお前を止めたかった。お前はミナトの奴に騙されてるんだ。いいや、お前だけじゃない。学校の奴ら全員が」
「何……言ってるの? なんでミナトくんの事をそんな風に」
「そもそも、アイツの恋心を奪うために異能を利用するなんて、お前らしくないだろ」
確かに。あれなんで?
そうな風に頭では混乱し始めていたはずなのに。気がつけば、私はマサトを思いっきり殴っていた。
やっぱりおかしい。それに、この威力。
「ミナトくんを、悪く言わないで!」
そう言った私はマサトを殴る、蹴る。こんなにも私はミナトくんが好きなのに、その威力は全く強くならない。
「お前の能力。恋する乙女の力は、恋をすればするほど想いが強ければ強いほど、力が増す能力。それなのに……この威力だ。本当は気づいてるんだろ? なぁ、ケイ」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
何がなんだかわからず私はマサトをひたすら殴った。流れる涙の意味もわからない。そして、一発。こんな弱々しいパンチでも当たりどころが悪かったのだろう。すでに満身創痍だったマサトはゆっくりと倒れた。
その瞬間、冷たい何かが全身に駆け巡った。やってはならない事をしてしまったような、後戻りができないような。
そうして、私の目の前に魔法陣が浮かびあがる。勝利の証。この魔法の中に立てば異能が手に入る。
いいんだ。私はこのために戦ってきたんだ。この力で、私はマサトくんの心を……心を?
「あ、あれ? なんで。私」
その時、静かな体育館に乾いた拍手が響いた。現れたのは、なんとミナトくん。満面の笑みで私のもとに近づいてくる。
「おめでとう、ケイさん。僕の為にありがとう」
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