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なぜか、彼を目の前にしても何も思わない。あんなに張り裂けそうだった思いが。どこにもない。
そうして、混乱している私を彼は突き飛ばしてきた。尚も訳がわからない私は魔法陣に近づいていく彼を見ていることしかできないでいた。
「種明かし、してあげるよ。僕の能力は、人の感情を弄れるものなんだ。君が僕に恋したのも、今君がどんな気分にもなれないのも。全部能力」
ミナトくんが魔法陣に乗るとその足元は光だして彼に力を与える。
「僕ね、この能力を使って人の恋を壊したり、仲良し同士に喧嘩させたりするのが……楽しくて楽しくて。この異能祭も最高だったよ」
ミナトが不気味に笑い始める。破顔したその笑みは高らかな笑いと共に恍惚なものへと変化していく。
「なんでも奪う能力。コレがあれば、もっと面白いことができる。僕の思うがままの世界を作れる」
「そんな……」
やっと溢れた言葉はそれだった。同時に大量の涙も。
「私の恋は全部、偽物だったの?」
「僕の経験からするとガキの恋愛なんてごっこ遊びと同じ。本物も偽物もないんだよ。最初っから空っぽの無価値。高校生の恋愛なんてまさしく、この世で一番価値のないもの」
「そんなん、私……私」
「辛いよね。でも大丈夫、すぐに楽になれるよ。折角協力してくれたんだ。まずは君から、全部を奪わせてもらうよ。何もなくなれば、何も考えず、楽になれる」
「あっ……あぁ」
迫ってくる彼の腕に逃げる気力すら出ない私。もう、このまま私は全部奪われてしまうの? 利用されるだけされて。馬鹿じゃん……。
その瞬間、私の名前を呼ぶ大きな声と共に誰かに抱き抱えられた。そして、風を感じるままに何処かに連れて行かれる。懐かしい感じだった。
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