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プロローグ
桜が綺麗……。来てみてよかった……。
昨日の入学式の時にも気になっていた。
学校の近くには、川が流れていて、土手があった。
その土手は桜並木になっている。
今年は少し開花が遅くて、いつもなら葉桜がちらほら見えててもおかしくない時期なのに、今、満開をちょうど越えようという様子で桜が咲き誇っていた。
入学式の帰りに、ふと見上げた先にある桜並木に目が留まったのだ。
学校からだと気づかなかったけど、実際に来てみると、桜並木に沿うように菜の花が咲いていて、その風景も美しかった。
思い切ってこの学校に入学することにしてよかった。
そう、思った。
「あれ?」
道の具合で気づかなかったけど、すぐ先の、とある桜の木の下にカップルが1組立っている。
どちらもうちの学校の制服だ。
男子生徒は完全に私に背を向けていて、女子生徒も男子生徒の姿に重なっていて、あまりよく見えない。
邪魔しちゃいけない。
さりげなく、気づかないふりをして通り過ぎようと思った。
すると、突然、女子生徒がものすごい勢いで私の方目がけて走ってくる。
わわわっと焦るけど、その子は私のことなど目に入っていないかのように、私の脇を駆け抜けていった。
呆然と思わず立ち止まった瞬間、強い風が吹く。
桜の花びらが、一斉に降り注ぐ先に、こちらを振り返る男子生徒の姿があった。
「蒼兄……?」
私は目を見開く。
鼓動が跳ねた。
風が止み、目が合った相手は……。
「なんだ、桜也かぁ。」
思わず呟く。
蒼兄のわけがないのはわかっているのに。
しかも桜也は、蒼兄とシルエットが大分違うのに……。
見間違えるなんて、バカみたい。
「お前……いつからそこにいたの?」
桜也が私に近づいてくる。
外で普通に話しかけられたのなんて、いつぶりだろう。
「……ちょっと前。風が吹くちょっと前。」
いつからと言われても、説明しづらい。
桜也は何とも言えない表情をして、私をじっと見ていた。
「さっきの……見てた?」
「さっきのって?」
「女子とのやりとり。」
「あ、さっき一緒にいた子とのこと?」
「やっぱ見てたのかぁ……。」
桜也はうーっと唸りながら、険しい表情を見せる。
「見てたって言っても、私が二人を見つけた時には、すぐに女の子が走って行っちゃったから。」
桜也は目をパチクリさせて聞いてくる。
「会話、聞いてたわけじゃないの?」
「うん。全然。近いって言っても、この距離で聞こえるくらい大声で喋ってたの?」
「いや……そういうわけじゃないけどさ。」
桜也は頭をボリボリと掻きむしった。
「あー……とさ……えーっと。」
桜也は言葉にならない言葉を発しながら、目を逸らしていたけれど、突然ニヤッと笑って私の視線を捉えた。
「なぁ。幼馴染のよしみで協力してくんない?」
何か企んでるような桜也の表情に、悪い予感しかしない。
「……俺の彼女役、やってくれよ。」
また強い風が吹いて。
私たちは、花びらの嵐に包まれた。
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