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「……あとは蒼兄のこと……だろ?」
「うん。でも蒼兄には嘘の彼女役だって説明してくれるんでしょ?
だったら、ま、いいかなって思ったよ?」
桜也はちょっと驚いたような顔をした。
「私ね、桜也の側にいたら、今まで全然見たことなかった世界が広がるかもしれないって何となく思っちゃったんだよね……。
今日の委員会で。」
「……菜々……さぁ。」
「ん?」
桜也は迷うような表情を見せたけど、結局口を開いた。
「今日、自己紹介の時、菜々にしては、すごくはっきりとした大きい声で話してたろ? あれも変わりたいの一環?」
あ……桜也は気づいていたんだ。
「あれでもすごーく頑張ったんだよ。
それに今だって、ものすごーく頑張ってる。
中学の3年間分よりもしゃべってるかもしれない。」
桜也はぶはっと笑った。
「えらいえらい。」
桜也がすっと手を伸ばし、私の頭を撫でた。
子ども扱いし過ぎなんだけど?
「……俺に協力してみようと思うって言ってくれたよな?」
桜也の表情がすっと真剣になり、ドギマギする。
「う、うん。うまくいくかわかんないけど。」
「俺の彼女ってことでいいんだよね?」
「彼女、役、ね?」
「もうキャンセルは受け付けません。」
桜也が時々見せるいたずらっ子のような笑い方をしているのを見て、何だかホッとする。
「桜也の気が変わったり……そうだな……彼女にしたい子ができたり、やっぱり私じゃ役が務まらないって思ったら、いつでも遠慮なく彼女役、解任してね?
勝手だとか、悪いなとか、気を遣わなくていいから。
それが条件。」
桜也は何とも言えない妙な表情をした後、黙って肩を竦めた。
「……まぁ……了解。
で、報酬は、蒼兄の情報、な?」
「え? 昨日前払いでもらったよ?」
おかげで蒼兄との接点が増えてありがたかった。
「……冗談だろ? あれだけでいいのかよ。」
桜也は何やら呆然としている。
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