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二人で歩き始めたものの、ちょっと気まずい。
黙って歩いた。
「……早着替え……。」
桜也はぽつんと呟いて、ぷぷっと笑った。
「何がおかしいの。」
「いや、すごい速さで変身してきたから。びっくりした。」
桜也は思い出し笑いでもしてる様子。
何よぉ……。
「あのままペアルックってわけにもいかないでしょ。」
「え、別に俺はかまわなかったけど。」
「からかわないでよー。もう。やめてよね。」
桜也め。
調子に乗ってるなぁ。
「でも、そのワンピース、似合ってるな、菜々に。」
不意に褒められてドキッとする。
桜也がそんなこと言うとは思わなかった。
驚いて桜也の方を向くと、目を逸らされた。
ちょっと顔が赤いように見えた。
「自分で言っといて、何恥ずかしがってるの。」
「いや、ちょっと口が滑った。」
口が滑ったって、失礼だなー。まったくもう。
「でもホントに。」
桜也の呟きが聞こえて、もう一度桜也の方を向くと、今度は目が合った。
桜也は優しく微笑んでいた。
……蒼兄と似てる。
不意に蒼兄を思い出してしまって、ドキドキして目を逸らした。
いつのまにか駅から程近い商店街を歩いていた。
どこかお店にでも行くのかな。
「今日の目的地。」
桜也が立ち止まったお店は……美容室。しかも……。
「ここって、雅兄が勤めてるとこじゃない?」
「正解。」
「え? 何で?」
「ま、とりあえず入ろう。」
桜也が店のドアに手をかけて中に入る。
私はわけもわからず、慌ててついていった。
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