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「なるほどね……。苦手なんだ、美容室。」
雅兄に聞かれるまま、白状する。
お母さんには散々、年頃なんだからちゃんとした美容室に行くように勧められていたのだけど、昔々連れていってもらったお母さんの行きつけの店の美容師さんに、いっぱい話しかけられたのが苦痛だった。
「会話しなきゃいけないって思うだけで疲れちゃって、もう二度と行きたくないと思いました。」
伸ばしっぱなしにすれば、美容室に行かないといけない頻度は下がる。
前髪も作らず伸ばしていたから、半年に1回行けばいい方。
どんな髪型にしたいか聞かれるのも苦痛だったから、適当に10センチくらいまっすぐ切っておいてくださいとか言って、スピード勝負でそんなに会話しなくてもいい店に行っていた。
「俺もしゃべり過ぎないようにしないとね。」
雅兄が悪戯っぽく笑った。
「雅兄は知ってる人だから……多分大丈夫……です。」
髪を洗ってもらって、鏡の前に座らされていた。
雅兄が私の長い髪を梳かしながら、どうしようか?と聞いてきた。
「……どうしたらいいと思いますか?」
正直どうしたいかとかなくて、しかもどう注文つけたらいいかもわからなくて。
雅兄だから、素直に聞いてみる。
「おーい、桜也。どうしたらいいと思う?」
雅兄が後ろを振り返る。
桜也は、菜々をちゃんと家に送り届けないといけないからと言い張って、店に留まっていた。
「俺に聞いたってわかんねーし。」
桜也はふてくされたように言う。
雅兄の前だと弟モードなのか、いつもより幼く見えた。
「どれくらいまでなら切ってもいい?」
雅兄に聞かれて考える。
「さすがにショートカットまでは抵抗あります。
でも、バッサリ切っちゃってもいいです。」
せっかくだから半端なことしなくてもいい気がしてきていた。
「長さもなんだけど……。
菜々ちゃん、前髪作るの嫌?」
前髪作るとケアが面倒……とか思ってる時点で女子として失格なんだろーなー。
「前髪のセルフカットの仕方、サービスで教えてあげる。
そうすればそんなに頻繁に美容室に通わなくてもいいでしょ。
まぁ、こっちは商売あがったりだから、なるべく来てほしいところだけど。」
雅兄は他のお客さんに聞こえないように、こっそり私の耳元でそんなことを言った。
私のケアが面倒と思う気持ちも見抜かれた気がして、ちょっと恥ずかしかった。
「……わかりました。お任せします。」
雅兄は、よーしと気合を入れて、私の髪のカットを始めた。
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