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確かに髪型で大分印象って変わるものかもしれない。
鏡に映る自分の姿にちょっと呆然とする。
「菜々ちゃん、思ったより髪の量も多かったから、大分すいて軽くしてみた。
物理的にも軽くなったでしょ。」
雅兄が言うように、今まで何か頭に重りをつけてたのかもしれないと思うほど軽い。
髪の長さは肩を少し超えたくらいで。
雅兄が、まったく結べないのも菜々ちゃんには不便かもしれないとその長さにしてくれた。
前髪も作られて、でも斜めに流す感じだから、一部おでこがのぞく。
ヘアアイロンをかけられた髪はサラサラツヤツヤで、これが私の髪なんだろうかと思う。
「菜々ちゃんの髪、すごく健康でいい髪だからさ、ちゃんとお手入れしてあげなよ。」
雅兄がホームケアのレクチャーをしてくれる。
私は熱心に聞いた。
「あ、そうだ。ちょっと待ってて。」
雅兄が急にお店の奥に引っ込んでいった。
所在なさげに鏡の中の自分に視線を投げていると、桜也と目が合った。
何となく照れくさくて、へへっと笑った。
桜也はちょっと困ったような顔をして、何も言わずに目を逸らした。
……変なの。
「これ、あげる。」
戻ってきた雅兄が手にしていたのはヘアアイロンだった。
「え? ……あげるって……。」
「私物。もう使わないから捨てるつもりだったんだ。
まだまだひよっこだった頃にね、練習用に持ってた奴。
とりあえず使ってみて。
慣れてきたら、自分で買い替えるといいよ。」
「そんなにしてもらったら……。」
戸惑う私の頭を雅兄は笑顔で撫でた。
「菜々ちゃんは妹みたいなもんだから。
……またいつでも来て。
何か困ったことがあったら、相談にも乗るよ。
……兄として。」
受付時間を終えた店内は、他にお客さんもいなかった。
他の美容師さんたちもいつのまにかいない。
だからなのかな、この特別扱い。
「ありがとうございます。あの……。」
私は雅兄の目を見て、勇気を出してお願いする。
「雅兄と連絡先、交換してもらってもいいですか?」
雅兄は笑って、いいよと答えた。
ホームケアで困ったら、24時間質問を受け付けますとも言ってくれた。
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