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カット料金を支払ってお店を出た。
家を出るときに、お母さんに使わなかったら返してねと持たされたお金で支払ったんだけど……。
「桜也……もしかして、うちのお母さんは、今日雅兄のお店に行くってこと、知ってたの?」
桜也はチラッと私を見て答える。
「んー。そうかもなー。
俺は言ってないけど、母さんづてで聞いてたかもなー。」
桜也のお母さんは知ってたわけか。
お母さん同士の仲良しぶりは尋常じゃないから、筒抜けだったわけね。
「そんな隠さなくてもよかったのに……。」
「菜々、逃げるかなーって。」
「信用ないなー。」
「店に行く前に尻込みされそうじゃん?
行ってみてそれでも嫌なら無理することないとは思ってたけど。」
んー、確かに。
事前に言われてたら、行くのも拒絶してたかもなと妙に納得してしまった。
「……だまし討ちみたいなことして、悪かったよ。」
桜也がボソッと謝ってきた。
「謝らなくていいよ。結果的にはよかったって思ってるよ。」
気分は軽やかだった。
駅前にさしかかる。
不意に桜也に手を取られた。
「見てみ、菜々。」
桜也が指さしたのは、駅前のディスプレイ。
そこのガラスがちょうど鏡みたいに私たちの姿を映しているのがわかる。
「俺ら、釣り合わない? 不自然?」
目の前で手をつないでいる二人組は、そこまでおかしなカップルでもなく。
「別に髪型が変わってなかったとしても、俺は自分と菜々が釣り合わないとは思わないけどね。
……とはいえ、その服にその髪型のその子はさ、十分……。」
桜也は何か小さくごにょごにょと言うと、私の手をパッと離した。
「うへー。恥ずかしいわぁー。」
桜也は顔を背けて、自分のシャツの首元を掴み、服で顔を扇いだ。
私も恥ずかしくて、頬が熱かった。
「ありがと。桜也。」
雅兄と桜也がせっかく協力してくれたんだから。
ちゃんと周りの世界に手を伸ばせる自分に変わっていこうと思った。
軽やかになった私の姿をもう一度ディスプレイのガラスで確認する。
この軽やかな気持ちで一歩踏み出していこう。
そう思った,
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