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どうしてそこまで頑なに彼女作らなかったんだろう。
「……桜也も好きな人いたの?」
「いや。」
即答だった。
そりゃそうか。
いたらどうにかなってたかもだし、今だって、こんな話を私に持ってこないか。
「中学の時の告白相手は、今は誰かと付き合うとかは考えられないから……とか、部活に打ち込みたいから……とか、何かもっともらしいこと言えば諦めてもらえたんだけどさ……。
今日の相手はそうもいかなくて。」
桜也は頭をガリガリと掻く。
「え? 何があったの?」
困ったような桜也の表情が気になり、思わず聞いてしまう。
「好きな人でもいるのかって聞かれて、曖昧な返しをしたら、いないなら待つから考えてほしいんだけどって食い下がられて。
で、仕方ないから、好きな人いるからって言っちゃってさ。
それでも食い下がろうとしたから、近いうちに告白する予定……なんて言っちゃって。」
はぁ……。
事情はわかったけど……。
「それと私が彼女のフリをするのとはつながらないんだけど。」
「つながるだろ!」
桜也は前のめりになってまくしたてる。
「あの様子だと、告白したかどうかとか、その結果どうだったかとか、聞いてくると思うし、結果うまくいって彼女が出来たとでも言わないと、諦めてくれなそうなんだよ!」
事情はわかった。
わかったけど、やっぱりその彼女役は、私じゃなくていい。
むしろ私じゃ務まらない。
「頼むよ、菜々ー。」
え? と思う。
桜也が私の名前を呼ぶなんてどれくらいぶりだろう……。
中学では、「津川」って名字で呼ばれてたし、中2くらいからは、そもそも学校で会話することがなかった。
お母さんのつながりで桜也の家にお呼ばれする機会はあったけど、その時だって菜々なんて名前で呼ばれた覚えはない。
おい、とか、あのさー、とか、そんなだった。
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