episode263 臓器提供者①

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「それに君に身体を拭かれたりしてるとね——」 九条さんははだけたパジャマを羽織りなおし タオルを持つ僕にもう結構と両手を上げる。 「嫌なの?」 「嫌だよ。いつも僕が面倒を見てやりたいのに情けなくて」 彼らしい。 恥ずかしそうに唇を尖らせる。 「もうすぐ髪も洗ってあげる」 「いいよ。君がしなくても。してくれるナースもヘルパーさんも山といるから」 「そりゃあなただもの。触りたいだけさ」 ボサボサに寝癖のついた髪なんて珍しいから可愛くて。 「でもダメ。僕以外に触らせたら許さないぞ」 「早く行けよ。僕の肝臓の具合を見て来い」 九条さんはいじけて背中を向ける。 そのくせ——。 「分かったよ」 立ち上がろうとすると一瞬。 僕の手を強く掴んで離さないんだ。 「シャンプーはジョンマスターオーガニックで用意して」 「分かってるよ。もうリペアマスクまで買ってあるんだ」 「準備がいいね」 言うと背中を向けたまま彼は僕を自由にし頷いた。 「行っておいで——彼も待ってる」 もちろん申し訳ない気分にはなる。 けれど実際席を立たないわけにはいかなかった。 彼にとって僕だけのように。 今、征司にとってもまた僕だけなんだから——。
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