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「それに君に身体を拭かれたりしてるとね——」
九条さんははだけたパジャマを羽織りなおし
タオルを持つ僕にもう結構と両手を上げる。
「嫌なの?」
「嫌だよ。いつも僕が面倒を見てやりたいのに情けなくて」
彼らしい。
恥ずかしそうに唇を尖らせる。
「もうすぐ髪も洗ってあげる」
「いいよ。君がしなくても。してくれるナースもヘルパーさんも山といるから」
「そりゃあなただもの。触りたいだけさ」
ボサボサに寝癖のついた髪なんて珍しいから可愛くて。
「でもダメ。僕以外に触らせたら許さないぞ」
「早く行けよ。僕の肝臓の具合を見て来い」
九条さんはいじけて背中を向ける。
そのくせ——。
「分かったよ」
立ち上がろうとすると一瞬。
僕の手を強く掴んで離さないんだ。
「シャンプーはジョンマスターオーガニックで用意して」
「分かってるよ。もうリペアマスクまで買ってあるんだ」
「準備がいいね」
言うと背中を向けたまま彼は僕を自由にし頷いた。
「行っておいで——彼も待ってる」
もちろん申し訳ない気分にはなる。
けれど実際席を立たないわけにはいかなかった。
彼にとって僕だけのように。
今、征司にとってもまた僕だけなんだから——。
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