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無理もないか。
義理の弟を体を張って助けた義兄。
本当なら美談で終わるところだ。
「2人はなんていうか——ねえ」
僕が唐突に椎名さんに助け舟を出すと。
「ああ、ええ。犬猿の仲といったらよいか——」
「肝臓を提供なさっているのに?」
医師を余計に混乱させることを言う。
「いや、つまりこういうお家柄ですからね——義兄の方はここぞとばかり当主に恩を売っておきたかったのかもしれないし。僕には想像もつきませんが——とにかく常々彼らは対立関係にある。征司くんが事態を知ったらきっと体に障るでしょう」
でもさすが話を繋ぐのは上手い。
医師はふんふんと頷いて
「いいでしょう。そういうことならお互い顔を合わせないよう手配を——しかしそうなると」
「お金のことなら問題ありません」
医師が言い出す前に僕は先手を打った。
ICUのひとつやふたつ。
いや病院一棟だって借り上げてやる。
「どちらが先に目を覚ましますか?」
僕が問いかけた先に
九条さんの長い指が額のあたりまで持ち上げられるのが目に入った。
「彼の方ですね」
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