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考える間もなく僕は九条さんの手を握っていた。
温かく滑らかなその手はいつもと何ら変わらない。
「ごめん……驚いたよね……」
乾いた声が言う。
「ああ……驚いたよ」
「君に言ったら反対すると思った。だから……」
「いいから。まだ話さないで」
こんな時さえ口元に穏やかな笑みを浮かべて——。
「強行した……勝手すぎたかな……」
色のない唇に僕はそっと人差し指を押し当てる。
「あなたは間違った事なんてしたことないよ」
むしろ——それが怖いくらいで。
「征司お兄様に他人の臓器を淹れるのが嫌だと言った……僕のためにしてくれたことだって分かってる」
九条さんは一瞬大きく目を見開いて
それからそっと首を横に振った。
「僕は……そんなんじゃない……」
まだ麻酔が効いているようだ。
もう一度目を閉じるとそのまままた眠りに落ちてゆく。
「ありがとう——ゆっくり休んで」
僕は額に一つキスを落として。
後ずさるように部屋を出る。
音をたてぬよう病室の扉を閉めた瞬間。
「忙しいな。王様もお目覚めだ」
後ろに椎名さんが立っていた。
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